落書き、ボツ作品

空君縫ちゃんボツ小説

letm_official

(この記事は2022年7月にFANBOXに投稿したものの再録です)

先日に引き続き、ボツ作品供養です。

イメージとしては風邪っぴき紅と甘えんぼ空君のプロトタイプ小説で、空君の事が分かるといいな~と思って書き始めた物です。が、説明的すぎて面白くならなかったのでボツになりました。

めちゃめちゃ書きかけですが供養させてください!縫ちゃんも居るよ!

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 Kプロダクト事務所ビルの一角には、所属タレントが誰でも利用できるダンススタジオが設けられている。影縫はダンスシューズを片手にそちらへと向かっていた。日課とはいかないまでも、予定が空いた時間を使い、ふらりとスタジオに足を運ぶ事は多い。
 さて扉を開くと、数人の先客の姿があった。見覚えのある事務所の後輩だ。
「さっ……朔宮先輩! お疲れ様です!」
 それまできゃっきゃとじゃれあっている様子があったのだが、影縫が入ってきた途端、皆一様に背筋を正して畏まってしまう。
「お疲れ。俺も使っていいか?」
「勿論です!」
「っていうか俺らもう帰るトコだったんで!」
「どうぞ気にせず使って下さいっ! お邪魔しました!」
 そう言うと彼らは速やかに荷物を纏め、慌てた様子でスタジオを後にした。
 一人残されたのは、友人たちの突然の帰宅を、影縫と同じくぽかんと眺めていた青い髪の少年。影縫と同じくKプロダクト所属のアイドル、一色空である。
「お、お疲れ~……なんか皆帰っちゃったね」
 空は影縫に向かって、へらりと笑ってお愛想を一つ。まだ学生の彼は影縫より何年も後輩なのだが、共通のソシャゲにハマっていた事がキッカケで距離が近づき、今では一緒に遊んだりもする仲だ。
「……なぁ空……」
 影縫の呼びかけに、空は首を傾げる事で返した。
「俺……もしかして後輩に嫌われてるのか……?」
「えっ影縫でもそういう事気にするんだね!?」
「あんなにあからさまに避けられたらそりゃ気になるだろ」
 基本的に他人への興味関心が希薄な影縫だが、さすがに目の前でそそくさと帰られてしまっては気にするなというのが無理な話だ。ダンスシューズに履き替えつつ、空の返事を待った。
「うーん、嫌われてるっていうか、やっぱり影縫が居るとやりづらいって感じはちょっとあるのかも……」
「やりづらい?」
「うん。ほら、影縫って凄い黙々とストイックに練習するだろ? 皆ダンスの練習しながら友達と喋ったり遊んだりするのも楽しんでたりするからさ。隣で先輩に真剣にやられちゃうと気が抜けないってのはあるかなぁ」
「そんなの気にしなくていいのに……何なら俺隅っこの方で勝手にやらせてもらうから放っておいてくれていいのに……」
「いや事務所のトップ相手にそれは出来ないよ!? もっと自覚持って!?」
 自分の事を凄い人だとは全く思っていない所が、影縫のいい所であり悪い所でもあると思う。
「あっ、あと影縫ってやっぱダンス上手いから。そんな人の前で下手な踊り見せるの恥ずかしいって気持ちもあるかも」
「俺いちいち人の事なんて見てないんだけど……」
「影縫はそうでも普通の人は気になっちゃうの! ただでも、影縫は別に悪い事してるわけじゃないからそのままでいいと思うよ。気にするか気にしないかは人の勝手だし」
「……そう。分かった。……お前はいいのか?」
「うん。俺はもうちょっと居る。勉強させて貰いま~す!」
 空がそう言いながらおどけて敬礼すると、影縫はほんの少し目元を細めて立ち上がった。ワイヤレスイヤホンを耳にはめ、軽く体を曲げ伸ばし。それから、鏡に映る姿をじっと見据えて踊り出す。どうやら自分の世界に入ってしまったらしい。
 REVERSEは今、特に新しく覚えなければならない曲があるわけではない。空が見ていても、何の曲を踊っているか分かるような馴染みのある動きだ。それを影縫は、足さばきや腕の角度、指先の動きや目線一つに至るまで、不純物を取り除くように、何度も、何度も。繰り返し確認し続けている。
 ファンにもっと喜んでもらうために芸事を極めたい……なーんて、殊勝な心掛けが出来るタイプの人間でない事は空も知っている。多分きっと影縫は、踊る事そのものが大好きで、踊る事そのものが彼にとっての癒しなのだろう。
 以前ちらりと聞いた話だが、彼の亡くなった母親も、踊りが好きだったらしい。自分の中に、死んだ母親の欠片が残っている事が嬉しいと、柄にもなく感傷的な事を言っていたのは空もよく覚えている。
(やっぱり綺麗だなぁ……)
 影縫はそこまでタッパが大きくなく、線が細くて一見すると舞台映えしづらい印象を受ける。だけど、華奢な身体の全てを使って表現される彼の舞は、しなやかで、色気があって、うっとりと見惚れるほどに美しい。彼の踊りには、小柄な体格を補って余りあるエネルギーが宿っている。例え大型ホールの舞台に一人で立たされたとしても、そのステージの広さに引けをとらない程の存在感を放ち、人目を一身に奪うのだ。
 これを才能と呼ばずして何と呼ぶのだろうか。そんな考えに行きついた瞬間、空の心に、ふっと隙間風が通り抜けた。
(……俺の才能って、何だろう……)
 名字からも察せられる通り、空は事務所社長である一色紅の親族。腹違いの兄弟だ。
 何せ兄が生ける伝説のため、空はどこに行っても「紅の弟」として扱われてしまう。その事が目下の悩みだった。
 親子ほども年の離れた兄は「お兄ちゃんの名前くらいいくらでも使っていいぜ~♡」なんて、あっけらかんとのたまうのだが、そんな事をして果たして意味があるのだろうか。それでは単に、兄の人気に高下駄を履かせてもらっているだけのアイドルになってしまうのではないだろうか。テレビに出ても、雑誌の取材を受けても、大人たちが知りたいのは空の事ではなく紅の事だ。まるで自分が透明な空気のように扱われている気がして、心がツキンと痛みながら、顔には笑顔を浮かべて応対したのは一度や二度の話ではない。
 血の繋がりは確かにあるはずなのに、自分には兄のように圧倒的なカリスマ性がない。人目を惹きつける華やかさがない。何もかもが「まあ悪くないよね」程度の、平々凡々。何でもある程度ソツなくこなせるが、だからといって突出した何かがあるわけではない。目立つ事もなく、扱いやすく、都合のいい位置に収まってしまう。それが空だった。
 
 ◇
 
 三十分ほど経った頃だろうか。ふう、と息を吐いた影縫が、カバンから水分とスマホを取り出し休憩をし始めた。
「空、クエスト手伝って」
「ええ? もうしょうがないなぁ~」
 空は練習を続けているというのに、影縫はそんなの一切気にせず自分都合でゲームに誘ってきやがる。ただ空も口では少しの不満を示しつつ、そろそろ休もうかとも思っていた所だったので、誘われるまま隣に腰を下ろした。
「どれ行く?」
「日替わりクエストの報酬欲しい」
「あっ、いいね。そういえば俺もまだやってなかった」
 こんなに仲良くタメ口で話してはいるものの、影縫は先輩であるだけでなく、まだまだ売り出し中の自分とは天と地ほども差のあるトップアイドルだ。なのに全くそんな風を感じさせず、先輩風を吹かすわけでもなく、何なら同学年の友人レベルに感じられてしまう事すらある。影縫が醸すこの独特の空気感が、空は好きだった。自然体で、肩の力が抜けていて、あとはちょっと自分勝手で都合がいいこの感じ。何だか隣に居ると安心する。
 まずは影縫ご要望のクエストを手伝って、その後空のやりたいクエストにも同行して貰った。そうやってしばし、ほぼ空だけがキャッキャと声を上げながら、二人でゲームに熱中した。しかしクエストが終わり、ふと場に沈黙が落ちた時である。再び空の頭の中に、先ほどまで考えていた悩みが顔を覗かせた。
 影縫の様子を伺うと、まだ練習に戻る気配はない。
「……影縫はさ……」
 空がぽつりと切り出すと、影縫もなんだといった具合にスマートフォンから顔を上げた。
「たまにしんどくなったりしないの? ユキ君の隣に居て」
 その質問に、しかし影縫は何を言っているのか全く分からないといった表情で首を傾げた。
「……は? しんどく、とは?」
「んーと……自分の方がグッズ売れてないなぁとか、自分の方が人気ないなぁとか、比べちゃてモヤモヤするっていうか……」
 ユキは間違いなく、紅引退後のナンバーワンアイドルだ。あの奇跡としか言いようがない圧倒的なルックスに加えて、スキルも華やかさも、人が自然と応援したくなるような親しみやすさまで兼ね備えている。当然人気も桁違いだし、グッズの売り上げやSNSのフォロワー数等でその差が分かりやすく視覚化されている。そんな絶対的アイドルの隣に立たされる事に、引け目意識など感じる事はないのだろうか。ふと聞いてみたくなった。
 もしかしたら、自分と同じような劣等感を、影縫も持ち合わせているのではないかと。そうだとしたら安心するなと、そんな気持ちもあった。
「全然。だってユキの方が人気なのは事実だろ?」
「そう、かもしれないけどさぁ……。凄いよね。影縫ほんとそういうの気にしないんだもんね」
 しかし影縫から返ってきた答えは、やはりというからしいというか、予想していた通りのものだった。さらりと自分の負けを認めてしまえる影縫の、いい意味でのプライドの無さが格好良く見えた。
 自分は明らかに兄より劣っているのに、でもそれを認めたくなくて、兄の人気を借りなくてもやれるはずだなんて、どこかで自分に期待している。
 いっそこんなちっぽけな自尊心など無ければ楽なのにと何度も考えた。もうプライドなんて捨てて、バカみたいに、「あの一色紅の弟です!」と大手を振ってアピールしてしまえたらどんなに楽だろうかと。
 だがそれすら出来ない。自分は何もかも中途半端で、かっこ悪い。
「……何でそんな事聞きたくなったんだ?」
 うつうつと考えながら、ゲームのメニュー画面に視線を落としていると、珍しくも影縫が話を広げてきた。じいっとこちらを見つめてくる瞳は猫のそれによく似ていて、何もかも見透かされてしまいそうで少し居心地が悪かった。
「俺、さ」
 影縫の問いに後押しされるまま、口を開く。
「兄貴が凄すぎて……自分って何なんだろうって、思っちゃうんだ……」

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本当に熱い炎は赤ではなく青く静かに燃えるんだぜなので、空君は紅以上のポテンシャルを秘めてると思ってるし、将来めっちゃいい男になると思ってます。

こういう葛藤も、過去の笑い話になるくらいイイ男になるんだぞ空君~!

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