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短髪紅if小話

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前回のぱやぱや短髪紅君が可愛かったので、軽く小説にしてみました。

前回の記事はこちら
紅くん短髪にすると誰か分からない説。
紅くん短髪にすると誰か分からない説。

紅と武蔵君とユキちゃんがひたすら仲良しなだけのお話です。
ただ紅に安易に髪を切らせると後々後悔しそうなので、短髪ifという事で!この子はもはや「ぱや君」という別存在という事で!よろしくどうぞお願いします!

 昼休みにユキが中庭を通りかかると、友人二人の姿が見えた。一人は赤い長髪で、一人は黒髪短髪の男子生徒。紅と武蔵である。武蔵は制服姿だが、紅は体育もないのにジャージを着用していて、武蔵と喋りながら腰を落としたり拳を突き出したり。それに対して武蔵は手足の位置を直させアドバイスをする様子を見せていて、どうやら紅は何か指導を受けているらしい。
「二人とも何やってるんすか?」
 気になったユキが声をかけて近づいていくと二人もすぐに気づき、武蔵は「おう」と片手を上げ、紅は大きく手を振りご挨拶。
「よぉユキ! 今武蔵に空手の型ってヤツ教えて貰ってんだ」
「……え? 何でまた?」
 武蔵は幼い頃より空手を続けていて、高校にも部活動推薦で入学した程の腕前である。その事は勿論ユキも知っているが、よりにもよって何故紅が指導を受けているのかは分からない。
「なんかダンス部が学祭でやる群舞に、それっぽい動きがあるんだと」
 と、首を捻るユキに対して武蔵が簡潔な説明を一言。それを受けて紅もうんうんと頷いた。
「そそ、今年はちょっと趣向を変えてよ、学ラン着て応援団風の群舞やる事になったのよ」
「へぇ〜! いいじゃないっすか!」
「で、色んな動画見てたらどうも空手っぽい動きが多くてさぁ、折角ウチには武蔵先生がいらっしゃるわけですし、本場の動きを教えて貰おうと思いまして〜」
 ユキが来た事で二人は休憩ムードになり、紅はスマートフォンを取り出して、武蔵は壁に背を預けた。つられてユキもすぐそこにあったベンチに腰を下ろす。
「ほらほら、これ。見てみ〜」
 何度かスマホをタップした紅が、ユキの隣に座って動画を見せてくる。画面内では詰襟とハチマキを着用した男女十数名が、太鼓と音楽に合わせて一拍ごとに素早く動きを切り替えるような群舞を披露していた。キレよく揃った手足の動きやフォーメーションは見ていて気持ちが良く、言われてみれば確かに武道の動きに通ずるものがある。中々硬派で格好いい動画だ。
「うわかっけぇ〜〜〜! 群舞ってこんなのもあるんすね!」
「中々いいよな。俺も見ててかっけぇなと思った」
「だろだろ? 普通のダンスもいいけど何でもアリの学祭なんだし、ちょっと変わった事やんのもいいだろ〜?」
 肯定的なユキと武蔵の意見を受けて、紅も嬉しそうに顔を綻ばせている。
 紅が所属するダンス部は、まぁ紅が所属出来ている時点でお察しなのだが、「大会優勝!」みたいなノリでは決してなく、趣味の延長線のような形で緩く活動している。ただ全員ダンスが好きである事に変わりはないため、学校行事等お披露目の機会があればある程度のものを仕上げてくるといった印象だ。紅自身「やるからには格好よくやりたい」というスタンスの人間なので(そしてキャーキャー言われたい人間なので)、より良く見せるために武蔵を頼るというのは彼らしいと言えるだろう。そしてそんな格好つけにわざわざ時間を割いて付き合ってやるのも、いかにも面倒見のいい武蔵らしくて微笑ましかった。
「じゃあ紅さんも学ラン着るんすか?」
「おう、着るぜ!」
「髪は?」
「え? うーん何かアレンジしてもいいけど、これの場合硬派な方が様になるだろうし……普通に一つ括りかねぇ?」
 紅の返答に、ユキが「そうじゃないんだけどなぁ」という表情を見せた。それに気づいた武蔵が苦笑しながらうんうんと頷く。
「ユキ、言いたい事分かるぜ。絶対短くした方がスッキリしてキマるよな」
「ええっ!? 高々学祭のために切れって言いてぇの!? やるわけねぇじゃん!!」
 頭の隅にもない提案だったらしく、紅が一気に渋い顔になる。
「いやそもそも何でお前髪伸ばしてるんだよ。女々しいし鬱陶しいし手入れ面倒なだけだろ?」
「はーい! このご時世に長髪は女々しいっていう発言、どうかと思いまーす! つーか俺はこの自分が気に入ってんの!! 今の俺が完璧にかっけーの!! あとぶっちゃけとある方面から需要があってお小遣い上乗せして貰えんの!!」
「とある方面って何だよ……お前いい加減変な小遣い稼ぎすんのやめな? 危ねぇぞ?」
「とーにーかーく!」
 武蔵の苦言は聞こえないふりをした紅が、これ以上は言及無用とばかりにバッテンを作った
「俺は絶対に短髪にはしません! 動画でも女子がポニテで踊ってんのカッケェじゃん。俺もその路線でいくもんね〜!」
 全く聞く耳を持たない様子の紅に、ユキは眉尻を下げて笑い武蔵はやれやれと嘆息する。まぁずっと長かった髪をこの程度で切るとも思っていなかった。冗談半分で提案した事だったので、この話はここでお終い。と思いきや
「えっ、なになに、紅君髪切るの!?」
 そこにキャッキャとした声が割って入った。見れば同じクラスの女子二人組で、たまたま通りかかった所で話が聞こえてきたらしい。
「いや、提案したら逆にぜってぇ切らねぇって却下されたトコ」
「まぁ紅さんらしいっちゃらしいっていうか……」
 すかさず武蔵が事の顛末を伝え、ユキがそれにフォローを入れる。すると二人は「なーんだ」と残念そうな表情を見せた。
「今のポニテも可愛いけど、短いのも絶対似合うのにね〜」
「イメージガラッと変わりそう。見てみたかったなぁ」
「えっ!? マジで!? そう思う!?」
 女の子からの意見を受け、野郎から提案された時とはえらい違いで食いつく紅。
「うん、めちゃくちゃ格好よくなると思うよ!」
「女子は全員興味あるんじゃないかな」
 そこからさらに色よい反応が返ってきたものだから、紅はたちまちでれでれと締まりのない笑顔になった。
「え〜、そこまで言われたら俺切っちゃおっかな〜♡」
 女子に言われた途端あっさりと手のひらを返す友人に、武蔵とユキが白けた目線を送る。なんやこいつ。手首にドリルでもついてんのか。
「えっ、ほんとに!?」
「うんうん切る切る~♡ だから学祭、ダンス部のパフォーマンスぜってぇ見に来てくれよな♡」
「分かった! 友達誘って見に行くね」
「楽しみにしてるね~!」
 手を振りながら去って行く二人に対して、紅も愛嬌たっぷりの笑顔で両手を振り返す。ちなみにこの人、女子に対してはいつなんどきでもこんな感じである。
 二人が遠ざかっていったタイミングで、武蔵がこれみよがしに溜息を吐いた。
「お前まーじ調子いいよな」
「ま、女子に期待されちゃ男としては無碍に出来ねぇだろ〜?」
「そういうトコがチャラいって敬遠されてんすよ。武蔵君を見習え武蔵君を」
 紅が女子にやにさがると、何故かいつも若干面白くなさそうにするユキが、ぶすくれた表情で手厳しい一言を送った。
 紅はご覧の通りノリ良くフレンドリーなので女子に絡まれる機会は多いものの、一方で誰にでも同じ事やってるよねと思われているフシがある。その点武蔵は紅のようにあからさまな態度はとらないが、ふとした瞬間に優しかったり必要な時にはさらりと手を貸してくれたりと、とにかくやり方がスマートな上に女子ウケを意識してやっていないのが高得点。当クラスにおいて彼氏にしたいガチ恋筆頭は、間違いなく武蔵である。(ちなみにユキはといえば、何故か女子全員から女友達扱いされている)
 純粋な高校生とはいえ、いやむしろ純粋な高校生だからこそ、誠実な硬派イケメンに靡くのは真理なのかもしれない。
「まま、いいじゃんいいじゃん。俺には俺の、武蔵には武蔵の良さがあるっつー事で。ほいじゃ練習再開~。武蔵せんせ、よろしくお願いしまーす♡」
 しかしユキの皮肉もどこ吹く風、紅が憎めない笑顔で練習の再開を促した。相変わらず都合の悪い事は右から左の便利なお耳をお持ちのようで。
 とはいえ口先だけは調子がいい紅の事である。結局その後も髪を切る様子はなく、どうやら提案は忘れ去られてお流れになったらしい。ほんとそういうトコやぞお前。
 
 ◇
 
 さて学校祭も翌日に迫った夕暮れ時。所属するサバゲークラブの出し物準備を終えたユキは教室に荷物を取りに戻る最中だった。ちなみにクラブの出し物は、サバゲーで使うエアガンを用いた射的ゲーム。実行委員会に依頼しておいた備品を組み立てて作った屋台もなかなかそれっぽく、メンバー一同明日を楽しみに待ちわびている。
 空はオレンジ色に染まっていて、他教室にもほとんど生徒の姿はない。皆部活に勤しむか、明日の準備を終えて帰宅し始めているかのどちらかだった。そんな中自分の教室に近づいていくと、遠目に一人の男子生徒の姿が見えた。ジャージ姿で席に座り、スマホをいじっているらしい。部活終わりの運動部と見えるのだが……いかんせん、クラスメイトのはずなのに、ユキはその姿に見覚えがなかった。
(……違うクラスのヤツかな?)
 別のクラスの生徒が友人でも待っているのだろうかと、廊下の窓から様子を伺う。
 ベリーショートの毛先をワックスで遊ばせており、浮き彫りになっている頸の凹凸が妙に色っぽい。スマホを眺めて伏せ目がちな目元のまつ毛と、耳元の一対のピアスが西陽を受けてきらきら光り、男子だというのにうっかり見惚れかけたのは内緒だ。ここまで見た目がいいと、同じクラスでないとはいえ誰だか分かりそうなものなのだが……。
 と、そこで見られている事に気づいたらしい。彼はスマホから視線を上げ、ユキに人懐っこく笑いかけてきた。
「おうユキ、おはよ〜♡」
 その表情と声と喋り方。ユキの頭の中で一瞬にしてピースが繋がった。
「……え゛っ!? も、もしかして……紅さんっすか!?」
「もしかしなくても紅さんよ? 何言ってんの?」
「いやいやいや髪!! 髪!!」
 自身の頭を両手で指差してジェスチャーするユキを見て、紅は面白そうに笑っている。
「言ったじゃん切ってみよっかな〜って。こういうのはいきなりやって場を騒然とさせるのが醍醐味ってモンだし、切るなら今日しかないだろ?」
 そもそもそんな話題自体を忘れかけていたし、切るにしても顔周りのイメージは変えず、襟足を残すくらいなんだろうなと勝手に思い込んでいた。そして前日にいきなりバッサリいった理由も、何とも紅らしいものだった。
「いや、言ってましたけど……うわ〜、すっげぇ思い切った事して……」
 紅の近くに寄り、改めてマジマジと髪型を眺めるユキ。後頭部にそっと触れると、切りたてのチクチクとした毛足が指を撫でる感触が面白い。確実に武蔵よりも短く刈り上げられている。遠慮がちな手の動きがくすぐったいらしく、紅がくすくすと笑いを零した。
「ダンス部の奴らもどちら様ですかって感じだった。皆のリアクション見んのマジ楽しい〜!」
「そりゃどちら様ですかになりますって! もうマッジで! うちのクラスに知らないヤツ座ってると思ったもん!!」
「あーっはっはっは!! ユキちゃんめちゃくちゃいい反応してくれるから紅さん嬉しいぜ〜♡」
 ユキのリアクションが楽しいらしく快活に笑った紅は、スマホを仕舞って荷物を纏め始めた。とはいえ放課後の今になってユキが髪型に気づいた時点で推して知るべし。彼は本日授業には一度も顔を出しておらず、学祭準備のためだけに学校に来たと見えるので、荷物などあってないようなものである。
「ユキももう帰れんの?」
「あ……はい。準備終わって荷物取りに来た所です」
「俺もさっきダンス部のリハ終わったトコ。なぁミスド行かね? 期間限定のヤツ食いたい」
「いいですね。それなら影縫ももうすぐ戻ってくると思うんで、三人で行きません?」
「おっ、いいねいいね〜。武蔵はどーせ血反吐吐くみたいな練習で忙しいだろうし、俺たちだけで行っちゃおうぜ〜」
 そう言う紅はいつも通りの笑顔なのだが、彼とは出会って以来ずっと長髪だったため、面貌が同じでも別人のように感じてしまいソワソワする。何せ地の顔立ちが整っているため、何をした所で当然様にはなるけれど、それでも以前の彼が恋しいような、でもやっぱり新しい表情が楽しいような、何ともいいがたい気持ちだった。
 そんなユキの視線に気づいたのだろう。紅が悪戯っぽく笑った。
「お? 似合ってて見惚れちゃった? カッコイイだろ~?」
 当然似合っている前提の聞き方がいかにも紅らしく、ユキからも小さく笑いが零れた。
「はい、かっこいいです。なんかこう……普通でいいなーって」
「おー? 微妙に聞こえるんだけどそれ褒めてるかー?」
「褒めてますって!」
 確かに「普通」とは褒め言葉として微妙に聞こえるかもしれないが、この時ユキの中に喜ばしい気持ちがあったのは事実である。
「なんつーか……学校祭の準備したり、休み時間にクラスメイトと下らない話したり、帰りに買い食いしたり……そういう普通で当たり前の事が紅さんと一緒に出来るの、いいなって。よく分かんないけど、なんか今改めて思いました」
 日常が当たり前に過ごせる事を、ついうっかり感慨深く感じてしまう、年寄りのような感想を漏らすユキ。いつもはここで「ジジくせぇ〜」なんて茶化してくるはずの紅だが、この時ばかりは余計な事を言わずに目を細め、頷き返してきた。
「……おう、そうだな」
 夕日を背に微笑む表情は、すごく綺麗で無邪気で嬉しそうで、そして慈しむように優しくて、やはりいつもの彼とどこか違って見えたのは、髪型だけのせいなのだろうか。
「縫ちゃんどこ居んの? もう迎えに行っちゃおうぜ」
 だがそれも束の間の事。ぱっと普段通りの雰囲気に戻った紅が、カバンを持ち上げながら問いかけた。それと同時にユキが感じた感慨も霧散して、何も変わらぬ放課後の情景が戻ってくる。
「体育館の方で明日の準備してると思いますよ」
「eスポ部って何やんだっけ?」
「普通に試合パフォーマンスみたいっすよ。その後馴染みがない人にも実際にゲーム触って貰う機会も作るとか」
「じゃあ明日はここぞとばかりにキャアキャアじゃん。縫ちゃんって密かに女子人気突き抜けてるもんな~」
「確かに。影縫に大っぴらにキャアキャア言える数少ないチャンスですね」
 美形のくせに愛想がないものだから、女子が近づきたくとも近づけない状態になっている友人を話の種に笑い合う二人。片方はぺたんこの、片方は教科書が詰まったスクールバッグを片手に、斜陽の教室を後にする。
 内履きの靴底が廊下に擦れる音。とりとめのない会話の合間に響く笑い声。どこからか聞こえてくる運動部の掛け声。まだ夏の名残が残る初秋の風。遠ざかっていく紅白の後姿。
 ごく普通の日常が、オレンジ色の光に照らされて輝いている。

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