ネコ縫さんと仁亜ちゃん
動物たちが人型と獣型を自由に行き来できる世界線。黒猫影縫と飼い主仁亜ちゃんの、いちゃいちゃ甘々ほっこりな日常。可愛くて幸せな気分になれる作品です。私も縫ちゃん一匹欲しいぞ~~~~!!
愛猫との日常
疲れた現代人の心を癒してくれる存在といえば、ペットだ。うちの子可愛いでしょ~? なんて、写真を見せながら親バカしている飼い主を目撃する場面も少なくない。
で、かく言うあたしもペットを飼っている。毛並がとっても綺麗な雄の黒猫だ。名前は影縫(だけど、あたしは短く縫と呼ぶ事が多い)。成猫になってからウチにやってきたものだから、最初は全然懐かなかったし何度か引っ掻かれたりもしたけれど、今は喉をごろごろ鳴らしながら甘えてきたりもする可愛いヤツだ。
「ぬーいー! ただいま! 遅くなってごめんね~」
玄関の扉を開いて、勢いよく帰宅を宣言する。と、まずは美味しそうな匂いがすっと鼻に滑り込んできた。それに次いで、奥から小走りで駆け寄ってくる音がする。
ニャア、と可愛く一声鳴いてお出迎えしてくれた小さな体に、あたしは一気に頬が緩んでしまった。
「ただいま~」
もう一度帰宅の挨拶をして、オデコの辺りをコチョコチョと撫でてやる。ちょっと迷惑そうに耳が畳まれたけど、満更でもなさそうに、あたしの同居人は目を細めていた。
「もしかしてご飯作っといてくれたの?」
問い掛けに返事は無かったものの、一人暮らしの我が家で夕飯を作るとしたらコイツしか居ない。小さな黒い背中は、待ってて、とでも言うように、台所へと姿を消した。
この匂いは何だろうな~、魚かな~、そんな事を考えながら居間に向かい、鞄を下してスーツを脱ぐ。それから部屋着に着替えた所で、再びこちらに向かってくる足音が。
「仁亜、晩酌する?」
扉の隙間から顔を覗かせた縫は、あっというまにヒトの姿になっていた。ビール缶片手の質問に、おっ、いいねー、するする。と、乗り気で返事をすると一度頭は引っ込んで、それからすぐに晩御飯とアルコールを乗せた盆を持って再び現れた。どうやら今日のおかずはイワシの煮つけらしい。さてはヤツめ、自分の好きな物を選んだな。
まっ、それでも、縫が作る物は大抵美味しいから何でもいい。あたしは正直料理を始めとする家事全般が苦手なので、コイツが居てくれて凄く助かっている。
ワクワクしながら食卓についているあたしの前にご飯が並べられて、影縫も食卓に着いて、何を言うわけでもなくグラスにビールを注いでくれた。ちなみに猫はアルコールを飲んじゃいけないので、奴の飲み物はビールではなくお水だ。
「「いただきます」」
準備が整った所で、二人揃って頂きます。ああ、家に帰って誰かが居る、あまつさえご飯が出来上がっているって、なんて素晴らしいんだろう。
このご時世、ペットが居れば、恋人が居なくてもまーいっか、ってなっちゃう人が沢山居る。特に奴らの人型は美人である事が多いので、そっちにゾッコンになってしまう場合も少なくない。しかも犬猫は人間とは違って、自分を大事にしてくれる飼い主のみを見て、飼い主のみを愛してくれるので、人間のように浮気する事も無い。
そしてウチの子も、例に漏れずとっても美猫さんだ。何を着せても似合うし、何をしても可愛い。もう何年も一緒に暮らしているのであたしの好みも熟知してくれているし、大人しい性格なのでダダもこねないし、とにかくあたしはヤツに情が湧いている。そしてヤツの方も、あたしに情が湧いている。
「おいコラ」
ソファでまあるくなって、食後の洗顔に勤しんでいる黒い毛玉を突っつく。紫色の瞳が迷惑そうに「なんだよ」と問いかけて来て、しっぽがばんばんと自己主張した。だけどあたしは引かない。
「人型になりなさいよ。イチャイチャさせろ」
あたしの主張に、おーーーきな溜息が吐き出されて、それからまた影縫は洗顔に戻ってしまった。猫のコレはとにかく長い。そしてとにかく重要らしい。飼い主とイチャイチャするのを後回しにしちゃう程に。
ムカッ。面白くない気分になったあたしは、もーいいわよとテレビのリモコンに手を伸ばした。猫っていうのは気まぐれだ。こういう時に構っても時間の無駄だ。画面には大して興味も無いバラエティ番組が映し出されたけど、他にすることもなくそれを眺める事にする。
隣でざりざりと毛皮を舐める音を聞きながら、ぼーんやりと、十五分はそうしていただろうか。お腹が一杯になった状態で見る食レポにあまり魅力を感じないながらも「ラーメンはやっぱり醤油だろ」と画面に向かって自分勝手なツッコミを入れている最中に、肩に重みを感じた。
「……終わったけど」
見れば、いつの間にやら人型になった影縫が、さっきはあたしを邪険にしたくせに、構ってほしそーに頭を乗っけてこちらを見上げていた。ああもう、クッソ、可愛いんだよこの野郎!!
さっきはゴメンネとご機嫌を伺うように、すりすりと頭を擦り付けてくる。滑らかな黒髪が首筋を滑っていく感覚がこそばゆい。背中がぞわっと粟立った。当然あたしの興味は大して面白くもないテレビから、目の前の美猫にシフトチェンジだ。
「はい、ごめんなさいのチュウは?」
「……」
あたしのあけすけな要求に、一瞬どうしようかなと思案するように、視線が右に左に彷徨った。だけどその後カリッと顎を甘噛みされて、それから柔らかく、唇が重ねられる。
半開きの唇から、今はざらざらしていないベロが入り込んできて、あたしのソレも絡めとられた。あたしがよーく教えた通りに、気持ちよく、ぬるぬると捏ね回される。ああ、たまらない。
膝に乗り上げられ、そのまま体重をかけられて、キスをしたままソファに押し倒された。
後はお察しの通り。人間の恋人同士で行うえっちな事を、そのままコイツとするだけだ。