小説

Perfume(他短編)

letm_official
R18/守屋武蔵/朔宮月影/一色紅/朔宮影縫

2018年12月にpixivに投稿した短編集です。月影さんと武蔵君の香水にまつわるお話。他、大根抱き枕×月影さんのエロギャグと、紅のクズビッチ話、ショタ縫ちゃんと武蔵君のお話があります。

 Perfume

「これ、プレゼント」
 警護仕事の終わりしな、馴染み顧客の海外VIPから差し出されたのは、シンプルで品のいいラッピングが施された小箱だった。月影は、手のひらに乗せられたそれをきょとんと眺め、それから小首を傾げた。
「私にですか?」
「ええ、そうよ。開けてみて?」
 促されるまま開封する。顔を覗かせたのは、メンズのパフュームだ。刻まれているロゴは、中々のハイブランドのそれだった。月影にブランド趣味は無いのだが、客層が客層だけに自然とそのテの事に詳しくもなる。
「あなた、パフュームつけないでしょう?勿体ないわ。香りを纏うのもお洒落の一つよ」
 茶目っ気のあるウインクと共に贈られた品は、ファッション業界では名の知れたマダムらしいプレゼントだった。
「有難うございます。でも、恥ずかしながら勝手がよく分からなくて…」
「手首の内側に一噴きよ。それから耳に擦り合わせるの。貸して」
 月影の手首に香りを噴き、それから自身の手首を擦り付けるジェスチャーをする女性。つられる形でそれを真似る月影に微笑みつつ、続いて耳の後ろへと。当然月影も後に続いた。
「うん、いい香り。とてもお似合いよ」
 思い通りにプロデュース出来た満足感を滲ませる彼女にもう一度礼を述べ、月影はむず痒そうに笑ったのだった。
 
◇ ◇ ◇
 
「アンタの顧客は大概アンタに夢見すぎなんだよなぁ~」
 所変わってここは会社のロッカールーム、ネクタイを解きつつ天井を仰いで、武蔵はケッと白けた声を出した。先程の一連の流れは、当然ながら彼も傍から眺めていた。
「こんな生活オンチズボラおじいちゃんに香水なんて贈った所で、これっきり使われないで埃被るのが目に見えてんのに。あ~あ、仕事中のアンタの外面詐欺に騙されてるわ~。あーあー」
 散々な物言いだが、それに対して月影はといえばこちらも着替えつつ苦笑を返すのみだった。なにせ武蔵の言う事は全て事実であり正論で、図星過ぎて返す言葉が見当たらないからだ。
 仏頂面のまま、武蔵が月影の首元に顔を寄せる。すん、と一呼吸吸い込めば、ほんのりとした汗の匂いと月影の匂いと、それに混ざって激しく自己主張する調香された人工物の匂い。思わずぐっと顔を顰めた。
「クッセェ」
「ええ?」
「化粧品クセェ。帰る前にシャワー行ってこいよ」
「そんなの帰ってからで…」
「俺ァそのテの匂いが大っ嫌いなんだよ!!晩飯食いっぱぐれたくなきゃ今すぐそのいけ好かねぇ匂いこそぎ落して来いッ!!」
「!?はいっ!分かりました!!」
 武蔵の作るご飯が、人生における楽しみのかなりのウェイトを占めている月影にとって、それは抜群に効果的な脅し文句だったようだ。これは一大事だとばかりに眉尻を下げつつ着替えを搔き集め、慌ててシャワールームの方へと消えていった。
 そんな、間違ってもハイブランドの香水などは似合わない仕草を見送って、武蔵はふんと、鼻を鳴らした。
 
 言えない。
 一挙手一投足に伴ってふわりふわりと香る、普段とは少し違う匂いに得も言われぬ色気を感じて、胸の内側がざわついたなんて。
 チリチリと情欲が燻って、落ち着かない気分にさせられたなんて。
 そしてそれをもし万が一自分以外の人間も感じていたらと思うと、居てもたってもいられなくなっただなんて。
 バカみたいだ。仕事中に、自分だけがバカみたいだ。そんな事、間違っても言えるもんか。
 
 一足先に着替えを終え、遠くで響く水音を聞きながら、ロッカーの扉をパタンと閉めて一息。
「…今度俺好みのヤツ買ってこよ…」
 そして休日、自分と二人きりの時にだけ、特別につけさせるのだ。

Perfume another

 職場から別々に帰宅して、シャワーを浴びて汗を流す。クロゼットから着心地のいい気に入りの服を取り出して着込んでから、髪を少しだけ整える。
 そして腕時計を身に着けている折、洗面台の隅に追いやられた小瓶が目に映った。
(…)
 少し逡巡した後、中身をほんのちょっと人差し指に吹き付けて、その指で両耳の後ろをトントンと叩く。少し苦みのある嗅ぎ慣れない匂いが、自分でも気にしないと分からない程度にふわりと香った。
 月影さんと二人で出かける、その中でも気が向いた時にだけ、コッソリ身に着ける匂い。
 色気づいてると思われたくなくて、デートぶって舞い上がって気合入れてるって思われたくなくて、でも仕事でも日常生活でもない特別な時間のために自分の気分を切り替えたくて、ほんの少しだけ、バレない程度に。
 手についた匂いを洗い流して、それからもう一度鏡を眺め、両手で軽く頬を叩く。
「よし」
 悪くない。
 きっと月影さんは、これがデートだとも思ってないし、俺と出かけるからっていう理由で別段めかし込んだりもしないんだろう。それがちょっとムカつくけど。
 でもやっぱり、相手のやる気如何に関わらず、惚れた相手の前では格好つけたいし、カッコイイと思われたいもんなんだよ。
『今から向かいます』スマートフォンでメッセージを送って、車のカギを手に取った。
 
 
 ソファに寝転んで活字本を読み流していると、インターフォンが鳴った。
「はぁい」
 先程連絡があったので、すぐに出かけられる準備は出来ていた。本を閉じて起き上がり、玄関へと向かう。
 武蔵君はたまにこうして、職場から直接ではなく、わざわざ一度お互いの家に帰ってから改めて食事に出かけたがる。そこに武蔵君の本来持っている、純粋さや可愛らしさが垣間見えるような気がして、いつも少しだけ微笑ましい気分になっている。勿論口に出そうものなら機嫌が悪くなるのは目に見えているので、そんな気持ちは自分の心の中だけに留めておくけれど。
「こんばんは」
 扉を開くと、仕事中よりほんの少し気の緩んだ表情の武蔵君が立っていた。シンプルな白のTシャツに、濃いインディゴのジーンズ。武蔵君はスタイルがいいから。飾り立てない服装がよく似合う。
「行きましょっか」
 そう言って踵を返す彼の後を追う。そこでふと、いつもと違う匂いが玄関先に取り残されている事に気付いた。
(あ)
 ごくたまに感じる香りだ。そう、丁度今日のように、二人きりで出かける時。その中でもさらに日を選んで限定的に。最初は気のせいかとも思ったソレも、何度も何度も嗅ぐうちに、彼が意図的にやっている事なのだと分かった。
「ふふっ」
「?なにが可笑しいんすか」
 車の助手席で思わず笑いを零してしまうと、隣からは怪訝そうな表情が返ってきた。
「いーえ、何も」
「…?」
 ああ、可愛いなぁ。でも、のっけからご機嫌を損ねるような事を言うのはやめておこう。
 だって、今日のこれはデートなんだから。
 
 
 二人きりで出かけるとき。その中でもさらに日を選んで限定的に感じる匂い。
 その中のラストノートは、必然的に、セックスをする時に感じる事が多くなる。最初は爽やかな柑橘系の匂いがまるでアクセサリーのように表面的に身に着けられていただけなのに、この頃になると、甘くて深い匂いに変わったソレが武蔵君の体温と混ざって溶けて、彼だけの特別な香りになっている。
 帰り際、唇を触れさせるだけのキスをした時にその匂いが鼻を掠めて、体の芯がぞくりと波打った。触れ合わせた温度と柔らかさを離しがたいと思いかけた瞬間に、向こうからふっと遠ざかっていってしまう。
「じゃあ…また明日」
 名残惜しそうな表情でそう言って、指先で髪を梳いてから運転席に腰かけ直す武蔵君。明日は警護仕事が入っている。体調管理も仕事のうち。つまりそう。そういう事だ。
「…もう一回」
 でも、「はいまた明日」そう言うつもりだった口からは全く別の言葉が零れていて、体もドアではなく武蔵君の側に傾いた。驚いた様子で目を丸くする顔に、もう一度キスを仕掛ける。
 柔らかくて湿った感覚と共に、ふわふわと、件の匂いが鼻孔を擽った。どんどんと堪らない心地にさせられて、口を開いて舌を這わせて、その先を強請った。向こうからは、何の抵抗もなく舌が絡まる反応が返って来る。唇の間で小さく響く水音が、静まり返った車内でやたらと大きく聞こえる気がして、それがさらに情欲を煽り立てる。はあ、と、喉の奥から熱っぽい呼吸を漏らした所で、一旦舌が離れていった。
「ちょ…待って。その気になんだけど…」
 唇を拭いながら視線を落とす武蔵君から、先程よりも一層濃くいい匂いが香ってくる。きっと彼は、こんな匂いを纏っているなんて、知らないんだろう。
「…誘ってるって言ったら?」
 色気を出すのは正直苦手なのだけれど、こういう時には、自分の性質が少し便利だとも思う。
 迷う事なく噛みついてきた顔の横側から、セックスの時の匂いがした。

デリバリーヘルス大根抱き枕

 深夜。熱が籠ったような息苦しさと、何かが体に纏わりつくような重みとで、月影は目を覚ました。
 眠たい瞼を擦りながら暗闇に視線を投げると、ぼんやりと白く浮かび上がる大きなシルエット。よくよく見ればそこには、人間の身長程もあろう大根のようなぬいぐるみのような何かが居り、ずっしりと伸し掛かってふうふう呼吸を荒げていた(口なんて無いのに)
「ひ…お、お化け!?」
 当然の流れとして月影が声を上げると、大根のような何かは弾かれたように首を擡げた。
「お化けだなんて失礼な!僕は大根と抱き枕のハイブリッド妖精だよ☆」
「うわ喋った!大根と抱き枕の!?」
「寂しい一人寝の気配を察知すれば、どこからともなく表れて颯爽と人々を癒していく良い妖精だよ☆」
「ええっ!?頼んでませんから!」
「返品不可でーす」
「頼んでませんからあっ!!」
 混乱している月影に構わず、手のように枝分かれした根っこでうごうごと体をまさぐる大根。適度な重量感と、肌に吸い付くようなもっちりとした柔らかさが全身を細やかに這い回る感覚に、思わず呼吸を乱してしまう。
「あ…ぁ…♡なんか、もちもちして…♡」
「人々を癒すためだけに作られたモチモチボディだからね!人間同士では体験出来ない感覚が味わえるよ!」
 重みを感じながらの愛撫はセックスの前戯を思い起こさせて、体の芯がチリチリ燻っていく。そう言えばこの大根の言う通り、最近はご無沙汰だった事を思い出した。こちら方面に淡泊な部類だという事もあり、忙しいと自慰すらも忘れてしまう事がある。
「はっ…♡はぁッ♡ぁ、ぁ…♡」
「おおっ、気分ノってきたみたいだねぇ」
 背中(?)にきゅっと手を回し、体を擦り寄せてきた月影に、大根が嬉しそうな声を上げる。さすが、抱き枕の妖精というだけあって、抱き心地は中々の物だった。
 乳首をこちょこちょしたり、脇腹をスリスリしたり、股間をナデナデしたり、やたら巧み手管に、口に出せない部分が疼き始める。そしてその頃になって、体の具合と比例するかのように、先程までモチモチなだけだった大根のある部分がやたら芯を持って固くなっている事に気付いた。正確には、足のように枝分かれしている股の部分である。恐る恐る視線を下に落せば、大根の股間に棒状に突き出す新しいパーツが出現していた。驚きのあまり声をひきつらせる月影。
「な、何ですかこれぇ!」
「低反発素材(かため)だよ☆」
「低反発素材!?」
「人々のエッチな気分に反応して、その時だけ魔法のように現れるんだ!ちなみに男性相手だと低反発穴が現れまーす」
「!? 私男なんですけど!?」
「月影さんが穴より棒の方が好きな事はリサーチ済みでーす」
「どこ情報…ひ、ぁ…っ♡」
 アレコレ疑問を呈していた月影であるが、かたいもので後孔を押し広げられる感覚にたちまち従順になってしまう。ちなみに全く慣らしてはいないのだが、妖精の都合のいい魔力的なアレで、痛みは感じなかった。
「んんっ♡んうぅ…~~~♡♡」
 ぬぷぷぷぷっ…♡すぐに根本までが挿入されてしまった。
「ッ、はぁっ♡なか♡なか、で♡おっきく…!♡」
「なんたって低反発だからね!月影さんと相性のいい形になるんだよ!」
 詰め込まれた低反発素材がじんわり広がりを見せ、ナカに丁度よくハマる具合の大きさになっていく。それで擦られるだけでも欲求不満の体には堪らないのに、大根はこれだけでは終わらない。
「ひぃッ!?♡♡」
 ぶううううん♡なんと胎内でいきなり振動が始まり、月影は喉を仰け反らせた。
「低反発素材の軸には振動機能付きバイブを仕込んでございまーす☆」
「ひ♡あっ♡あ♡うごきながらっ♡ぶるぶるってぇ♡♡あ♡あ♡だめ♡それっ♡ああぁっ♡♡」
「ん?ん?ぶるぶるええんやろ?抱き枕バイブおちんぽでスケベされるのええんとちゃうのんか!?イイって言わないとやめちゃうぞっ!?」
「ッ♡や♡やらっ♡やめないでくださいっ♡♡バイブおちんぽきもちいれすうっ♡♡」
「ふうぅ~~♡♡化けの皮剥がれてビッチの本性出てきたね~~~♡いいよいいよ~~~♡♡」
 妖精としてではなく、個人的に楽しんでいそうな感じになってきている大根が、ズコズコと腰を振りたくる。ベッドがぎしぎし激しく軋む音と、大根のやる気に満ちた息遣いが部屋に響く。
「ふー!ふー!どう!?おまんこ癒されてるっ!?」
「は、ひぃ♡ぉっ♡おまんこきもちいいっ♡♡いやされてまひゅっ♡♡ああッ♡こんなのはじめてえっ♡♡」
「んんん!セクシー大根冥利に尽きる~~~~!!今日は朝まで月影さん専用の抱き枕だからねっ!いっぱい癒してあげるからねえっ!♡」
「あッ♡はあぁ♡うれしいっ♡あさまでセックス♡うれしいれすぅ…!♡♡」
 すっかり大根抱き枕の虜となり、手どころか足まで大根の腰(?)に回して、だいしゅきホールドをキメる月影。
不可思議なセックスは、月影が意識をぶっ飛ばすまで続けられ、翌日目を覚ました時には既に、抱き枕の姿はそこに無かったそうな。

スーパーフリーダムビッチ紅ちゃん

「オヤジィ~♡俺ぇ~♡ベガスでカジノ遊びやりてぇの~♡勿論飛行機はファーストクラスで~♡ホテルはベラージオがいい~♡♡」
 普段は煙草を吸いながら騎乗位で嬉しそうに腰を振り、どっちが抱いてるんだか、という様子で食い気味にセックスを楽しむ紅が、可愛くしおらしくだいしゅきホールドしてきた時点で嫌な予感はしていた。とある極道組織のトップであり、背中に立派な絵が描かれている強面の男は、突然の猫なで声にげんなりとした様子で溜息を吐く。
「お前なぁ…この間クロムハーツ買ってやったばっかだろ…」
 全部の望みを叶えるとなれば、クロムハーツの財布一つとは比べものにならない額が吹っ飛ぶようなオネダリだ。それをいけしゃあしゃあと、大した気負いもなく言えてしまうのが紅という男である。超ド級の大物なのか、はたまた頭のネジが全部外れた状態で生まれてきてしまったのか。
「甲斐性ねぇ男には強請らねぇよぉ。オヤジだから言ってんの♡っ、あ♡あっ♡それイイ♡あんっ♡そこきもちいぃ♡♡」
 男であれば少なからず嬉しい、プライドを擽る言葉を贈られて、口八丁だとは分かっているのについうっかり気分が上がり、腰の動きを早めてしまう。媚びっ媚びでノリッノリの喘ぎ声も、わざとらしい。わざとらしいと思うのに…くそ、可愛い。
「あッ♡あッ♡ああッ♡♡ぶっといちんぽキモチイイっ!♡♡腹ン中ゴリゴリ擦れんの最ッ高!♡♡オヤジとセックスすんの好きぃッ♡♡ケツマン発情してぐずっぐずになっちまうよぉっ!♡♡」
「わざとらしいんだよお前はッ!!そんなに言うならベガスでのカジノ分、しっかりご奉仕出来んだろうなぁ!?あ゛!?」
「するするっ♡♡クチもまんこもぜぇんぶオヤジのオナホにしていいぜっ♡♡俺の体ぜぇんぶちんぽでマーキングしてっ♡♡おまんこ捲れ上がるぐらい突きまくって♡♡だぁいすきなオヤジのザーメンいっぱい飲みてぇよぉっ♡♡」
 お口の前に、人差指と親指で作った丸を持ってきて、テラテラと唾液が纏わりついた舌をいやらしく蠢かせながらの、ビッチ全開顔でのオネダリ。今度こそ、男の理性が本能に負けた瞬間だった。
「ッ~~~~~!!!♡♡♡」
 ずぱんっ!!!♡一度大きく腰を打ち付けられ、紅が嬉しそうに喉奥で鳴いた。それを皮切りに、まるでペニスで叩きのめすような激しいピストンが開始される。
「あ゛♡あ゛ッ♡♡お゛ッ♡お゛んん゛ッ♡♡すご♡しゅごいぃっ♡♡まんここわれうぅ゛ッ♡♡はっ♡あ゛♡本気ピストンきもぢいい゛ッッ♡♡オヤジのちんぽでドスケベまんこオシオキされてりゅう゛う゛っ!♡♡♡」
「あっちこっちで股開きまくるクソビッチまんこがッ!そのクセ俺の事を財布代わりにしやがってっ!怖いモン知らずのクソガキまんこ、一晩中叩きのめしてやるからなぁ!!覚悟しとけよなあッ!!」
 脅しをかけるつもりで吐いた言葉に、紅の瞳がぱっと輝いた。
「一晩中!?♡マジ最高じゃねぇかあっ!!♡♡約束だからなっ!!途中でヘバるんじゃねぇぞっ!?♡」
「え?え?え…!?」
 憐れ。男はセックス大好きスケベ魔人によって、この後精根尽き果てるまで搾り取られたのである。
 
 
 そして数日後、ラスベガスの最高級ホテルカジノで、シャンパン片手にスロットに興じる紅の姿があった。隣には、どこから連れて来たのかブロンド美人を侍らせて、高そうな葉巻を口に咥えている。
「あ~~~~、セックスして金貰えて遊び放題とか、人生チョロすぎなんだよなぁ~~~♡皆なーんで朝から晩まであくせくバカみたいに働いてんだろうねぇ?なぁレベッカ~?♡」
 常識や羞恥心や余計な自尊心その他諸々の一切を持ち合わせていない天性のスーパーフリーダムビッチに、一般人の苦労や心持が分かって堪るか。唯一話を振られたブロンド美女だけが、理解し得ない日本語に、ニコリと美しい笑みを向けたのだった。

まるごとバナナと女王様

 近所でよく、とても可愛い子を見かける。
 艶々の黒髪に、睫毛の長いアーモンド形の瞳。子供特有の瑞々しいほっぺと、うるうるの唇。語彙力の問題でうまく説明出来ないけど、とにかく天使っていうレベルに可愛い子だ。最初は女の子だと思ったが、黒いランドセルをしょっているし、スカートを履いている所を見た所が無いので、恐らく男の子だ。
 ショタっ子大好きモブおじさんとしては、非常にオカズになる生き物なので、ほぼ毎日ズリネタにさせて貰っている。
 そんなカワイコちゃんが、今…今…!
「ねぇおじさん。まるごとバナナくれるって本当?」
 今、俺の隣をぴよぴよ歩いているのです~~~~~!!
「うんうん♡とーっても美味しいまるごとバナナあげるからねぇ~♡あっちの公園まで行こうねぇ~♡」
 最初声を掛けた時は、当然ながら「知らない人についていっちゃダメだから」と断られたのだが、「こうやってお喋りしたんだからもう知ってる人だよね?」「おじさん、この近所に住んでるから、何度も君の事見掛けてるよ。知ってる人だよ」などと、子供だからこそ通す事の出来る謎理論を展開し、最後に「まるごとバナナあげる」と言えば、目をキラキラさせて「じゃあ行く」と首を縦に振ったのだ。可愛い~~~~!チョロい~~~~~!!
 当然、今から食べてもらう予定のまるごとバナナは、俺の股間のまるごとバナナだ。死角の多い公園までその子を連れ出して、茂みに隠れた場所でいそいそとズボンの前を寛げる。
「ほぉら♡おじさんのまるごとバナナだよぉ~~~~♡」
 ぼろん。既に勃起しているブツを目の前に突きつけると、可愛いお顔が恐怖に歪んで「ひっ」と声が引き攣った。おおおお!堪らん!この反応ちんぽにクるぅう~~~!!
「や、やだっ!やだッ!!」
 半泣きになって後ずさりするショタっ子を、勃起ちんぽをぶるんぶるん見せつけながら追い詰めていく。
「大丈夫大丈夫♡ぺろぺろしたら美味しいよぉ~♡好き嫌いしないであーんしてみようね、あ~~~ん、ッ!!?」
 ゴッ!!!!
 そんな風に調子づいていた所、自分の側頭部から鈍い音が響いてきて、鈍痛と共に俺は地面に倒れ込んだ。
「いっだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!何コレいっだあああああ!!!」
 ふと見ると、未開封の缶ジュースが地面に転がっていた。側面が若干ヘコんでいる所を見るに、恐らく今俺の頭にクリーンヒットした物の正体だろう。つかこれ、結構凶悪だったよ!?当たりどころ悪かったら死ぬよ!?
「おーい。オッサン何やってんの~?」
 ワンテンポ遅れて、男の声が聞こえてくる。見上げると、随分と若い…というより、恐らくまだ学生であろう男が、がさがさと茂みを掻き分けている最中だった。
 そいつは怯えているショタっ子と、ちんこ丸出しで倒れている俺を見比べて、ハッと鼻で笑った。
「うわ、キッモ。なんかヤバそうと思ったから来てみたけど、ホントにヤベー奴じゃん」
 そしておもむろにポケットからスマートフォンを取り出し、シャッターを切る。証拠を押さえられたのだと理解した時にはもう遅かった。
「お…おにいさあああああん!!」
「よーしよし、怖かったな~。もう大丈夫だぞ~」
 いよいよ堤防が決壊したように泣き始めたショタっ子が、男の足元に縋り付く。丸い頭をぽんぽん撫でつけながら、男は徐に俺に向き直り、それから心底憐れんだような目で見下ろしてきやがる!
「つーかオッサン。平日の夕方にふらっふらしてるとか、仕事してねーの?仕事もしねぇでこんなチビに粗チン突き出してフガフガ言ってんの?そんなんで生きてて恥ずかしくねぇワケ?俺だったら無理だわ~」
 その表情と物言いに、ぞく…じゃないかった。イラっとした俺は、やぶれかぶれで拳を振り上げたのだが、あっさりと腕を捻り上げられ、コロンと引き倒され、スナック感覚で地面と仲良くさせられてしまった。おい!コイツ力強すぎだろどうなってんだ!!
「白豚ニートが豚足振り上げた所でどうにかなるはずねぇんだよなぁ~!おら、豚は豚らしく鳴いてみろよ。ほぉらぁ!」
 どっかりと馬乗りになられ、完全にマウントを取られた状態で、ゴミを見るような目で顎を掴み上げられ罵られる。コイツ、ガラも物言いもかなり悪いが、よく見れば顔立ち自体は結構整っている。そんな男子にこんな事をされて、今度こそ、惨めさの中に確かな陶酔感が生まれた。
「くっ…悔しい!でも…ぶひいいいい!♡」
 こうして俺は、ちょっとキツめのイケメンにねめつけられて見下されて嘲笑われた挙句ブヒってしまうという、新たな性癖を植え付けられてしまった。ショタも最高だけど、子供でも大人でもない微妙な年頃の男子もいいかもしれないいい!!!ぶひいいい!!!
 
◇ ◇ ◇
 
「影縫大丈夫だった!?だから知らない人にはついていっちゃダメってあれ程言ったじゃないですかあっ!!」
「ごめんなさい…まるごとバナナくれるって言ったから…」
「まるごとバナナ!?まるごとバナナ食べたかったの!?後で買ってあげるからね!」
「今はちょっと…思い出しちゃうから、ポッキーがいい…」
「いやポッキーくらいいくらでも買ってあげるけども!でも思い出しちゃうって何されたんですかあぁ…!!」
「お父さん落ち着いて!通りすがりの高校生が保護してくれたので何もされていないそうですよ!セーフです!!セーフ!!」
 引き取りに来るなり、影縫の小さな体を抱きしめてほぼ泣いちゃった月影を、お巡りさんがどうどうと宥めすかす。
「あの…是非お礼をしたいんですが、その子の住所とかって、教えて頂く事は出来るんでしょうか…?」
「ああ、それが…最近個人情報厳しいから、教えてあげられないんですよねぇ」
「ですよね…あああ…どこのどなたか存じ上げませんが、ありがとうございますぅ…!」

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