小説

ネコ縫さんと仁亜ちゃん

letm_official

恋の季節ですから


 ちょっと遅めに帰宅した後、ご飯を食べて、お風呂に入って、その後ネットで猫グッズを見て、縫に凄く似合いそうなチョーカーを見つけたからそれをポチって、日付が変わる頃にベッドに入った。
 
「じゃっ、おやすみ~」
 
 少し離れた位置にある猫ベッドで丸くなっている愛猫に声を掛ける。すると片耳がこちらを向いて、目もうっすらとこちらを見て来たのだが、特にそれ以上の反応は無かった。まぁ、猫なんてそんなもんだ。
 
 電気を常夜灯だけにしてベッドに身を沈めた。心地よい疲れと、後は晩酌のアルコールも手伝って、すぐに意識が夢と現実の間を彷徨い始める。
 
 するとそこで、スプリングがギッと音を立てた。
 
 すん。首元の匂いを一嗅ぎされて、その後、ちょっとざらついた舌でほっぺたを舐められる。さらにぐいぐいと頭を押し付けられて、正直とってもくすぐったい。
 
 縫のヤツ、さっきおやすみって言った時は「全然興味ないですけど」みたいな顔しといて、結局寝るってなったらあたしの布団に来るんじゃないの。しかも来ましたよアピールまでして、何なのホント可愛すぎるわ。
 
 まぁでも、今あたしは結構眠かった。もうちょっとで爆睡しそう、ぐらいの感じだった。だから縫を放置して勝手に寝かせてもらう事にした。
 でも、待てど暮らせどアピールが止まる事はない。それどころかどんどんエスカレートしていって、ほっぺたどころか、目元耳元首元をべろべろ舐められて、まさに愛撫。さらにそれは唇まで伸びてきて、何度か舌を滑らせた後、最終的には一方的にキスされた。こうまでされると、さすがに寝てなんていられない。
 
 瞼を持ち上げると、夜這いをかけている張本人(張本猫?)の、とろんと潤んだ目がすぐそこにあった。本能剥き出し。エッチな事したくて、もう我慢できないっていう、ヤラシー顔。
 イケメン猫の人型がこんな顔をした時の破壊力たるや、計り知れない。
 
 あたしが目を開けた事で嬉しそうにした縫は調子づいて、ご主人様に跨り体をべったりくっつけてきた。ふぅふぅ呼吸を荒げて辛抱堪らんって感じで首を甘噛みしつつ、腰を揺らして擦り付けてくる。腹の辺りに感じるナニはもうすっかり固くなっていて、普段はどちらかと言えば淡泊な部類のコイツらしからぬ余裕の無さだった。
 
「なーに一人で盛り上がっちゃってんのよ、このエロ猫が」
「っ! ……だ、って……」
 
 ケツの間でゆらゆら揺れる、すらりと細長い真っ黒な尻尾がなんともナマメカシくて、それをやんわり掴んでからかってやった。弱い部分への攻撃に縫の体が一瞬強張って、それからへなへなと力が抜けてしまう。既にその気になっていたあたしはその可愛い反応に益々興奮させられて、猫は誰しも気持ちよくなっちゃう尻尾の付け根をすりすりと擦ってやった。びくんと腰が跳ねあがり、それから女の子みたいな可愛い喘ぎ声が、耐え切れずに口から零れる。
 
「今日一日、っ、ずっと、我慢してたから、ぁ……もう、カラダ、変になりそう……」
 
 言葉通り、ふにゃふにゃした熱に浮かされたような震え声が、あたしの悪戯のせいでつっかえつっかえになりながら吐き出される。はっはーん、そうか、そういう事か。そこまで言われてピンときた。そういや今って
 春じゃん。
 
「我慢してたの? 言えばよかったのに」
 
 猫の春。発情期。そりゃいくらコイツでもふにゃふにゃになっちゃうわ。いじめるのが一気に可哀想になって尻尾から手を離し、代わりにヨシヨシと頭を撫でてやった。発情があったのに、丸一日健気に我慢してたのね。そーいやあたし、今日は寄り道して帰ってきたし、帰ったら帰ったでネットショッピングに夢中になってて、あんまりコイツに構ってなかったからなぁ……。ちょっと反省。
 
「ごめんね?」
 
 お伺いを立てながら謝ると、すっかりと蕩けた紫色が、少しの非難がましさをこめてあたしを見上げてきた。「そういうの、もういいから」謝罪を一蹴してから、再び体が擦り付けられる。カリッと、少し痛いぐらいの加減で耳朶を食まれ、熱っぽい吐息がすぐそこに。
 
「……俺の事、どうにかして……?」
 
 耳元で吐き出された誘い文句は、どうにか所かメチャクチャにしてやりたくなるぐらい、イヤラシくて可愛かった。
 
 
 
 
「ふ、にゅ、うぅ、ぅ……」
 
 仰向けに転がって枕にぎゅっと抱き付いて、最早男が聞いても勃つんじゃないのってぐらい下半身をガッチリ掴んで来る声を出しているのは、何を隠そうあたしではなくあたしの愛猫だ。余談だが、猫の雄相手にはノンケでもその気になっちゃうヤツが少なくないらしい。実際あたしの知り合いにも一人、雄猫を飼ってイチャコラ可愛がっている野郎が居る。ソイツに関しちゃノンケではなく元々バイだったわけだけど、まぁ、その話は今度に回そう。
 
 で、あたしは今、一日ほったらかしにしていた愛しのお猫様を慰めるため、フェラチオに勤しんでいた。絶賛発情中につき、バカみたいに感度が良好になっている影縫は、ゆっくりとベロを上下に動かすだけでも腰を浮き上がらせて、ちょっと大げさなんじゃないかってぐらい感じてくれる。でも本人は大真面目。頭が真っ白になるぐらい気持ちがいいらしい。口からはマトモな言葉が出て来ないどころか普段は出ないように気をつけているらしいニャンニャン声まで出てしまっている始末。これは相当キてるなぁ。
 
「ひにゃ、ッあぁっ!!♡」
 
 ああもう、何だよその声は。吸い上げつつ根本まで飲み込んだ拍子に上がった声に、多分ちんこが勃つとしたらこういう瞬間なんだろうっていう、甘い痺れが下腹部を駆け抜けた。
 
 あたしがやってあげるから楽にしてなって提案した当初、縫はぐずぐず言って「やだ、仁亜としたい」とか、キュンとするようなダダをこねたんだけど、これ、どう考えてもあたしと出来なかったでしょ。せめて一回ヌいてからじゃないと無理でしょ。
 縫の先走りとあたしの唾液が混ざった粘液が、重力に従って奥の窄まりにまで垂れていく様子が見えた。それを指で塗り広げて、つぷりと中へ。
 
「ひ!?」
 
 反射的に、尻尾がくるんと前に回ってきて、あたしが指を突っ込んでいる部分を隠す様に丸まった。けどそんなものは意に介さず、ぐりぐりと指の腹でナカを擦ってやる。実はこれが初めてじゃない。あんまり気持ちよさそうにするもんだから、本気で縫ちゃん専用のアナルバイブの購入を検討した時期もあったぐらい、コイツはこっちを弄られるのが大好きなのだ。普段は涼しい顔をしてるクセに、蓋を開ければとんだ変態猫さんだ。
 
「やだ、やだ、っ、はずかしぃ……!♡」
 
 口ではそんな事を言ってるくせに、前は一層芯を持って固くなっている。クチャクチャ音を立てて抜き差ししている中だって、嬉しそうにあたしの指に吸い付いてくるんだから、お口とは裏腹に体は正直者だ。それとも縫は変態さんだから、ちょっと恥ずかしいのがいいって事かしらね?
 
 気持ちよさそうな声と、可愛い体の反応と、口に含んでいる縫の味のせいで、あたしの頭もぼんやりしてきた。いつの間にやら下着の中が、ぬるぬる潤ってきているのが自分でもよく分かる。ああ、縫を慰めるだけで終わるつもりだったのに、こうなっちゃったらもうこのままじゃあ終われないなぁ……。
 
「仁亜、っ……も、もぉっ……♡」
 
 溢れる先走りの量が一気に増えて、荒い呼吸の中に「出ちゃう」の声が混ざる。嬉しくなって、手加減なしに頭を動かして、中も掻き回していると、縫の足ががくがくと震え出した。
 
「う、にゃ、ッあ、あぁ、っ……―――!!♡」
 
 ビクッ、ビクッ、と、腰も口の中の物も飛び跳ねて、勢いよく精液が吐き出される。口いっぱいに広がる愛猫の味に、体の芯がざわついた。ゴクリ。全部をしっかり飲み下す。美味しいモノじゃあ決してないのに、コイツのコレは別に嫌だと思わないから不思議なモンだ。
 
「エッチな声、いっぱい出ちゃったね」
 
 絶頂の余韻に放心状態な縫を組み敷いて、顔をつきあわせる。終始抱きしめて仲良くしていた枕を腕から抜き取って、邪魔なそれが無くなった所でキスを仕掛けた。ニャアニャア鳴いて感じまくって、可愛かったなぁ。
 
 お互いにベロを絡ませて口の中を堪能していると、腰骨の辺りに手が滑ってきた。それはするりとお尻に移動して寝巻を掻き分けて、表面を擽るようなタッチで周辺を撫でてくる。ムラムラしている状態での際どい部分への刺激に、鼻からみっともない声が抜けた。
 
「……じゃあ次は、仁亜の番」
「ん、ぁっ……」
 
 エッチな声、いっぱい聞かせてね? 耳元で聞こえた声は、さっきまでとは一変して一丁前に雄っぽく、今度こそあたしの女としての部分がきゅんと疼いた。
 
 他のどの男よりも大切な、我が愛猫との夜伽本番は、これからである。
 
 
 
 
 後日、あの日に影縫の機嫌を損ねる決定打となったネットショッピングの賜物、チョーカーが届いた。
 
 あたしは首輪っていうものが好きじゃない。それに、縫はあたしにとってそんなものを着けさせるような相手でないとも思っているから、可愛い首輪が色々あるのは知っていたけど買った事は無かった。だけどチョーカータイプなら虐げている感も無いし、人間が着けてもおかしくないし、何より縫に似合いそうだし、ちょっとしたアクセサリー感覚で着けられていいかなー、と思ったのだ。
 
「ぬーいー♪ ぬーいちゃん♪」
 
 細身だけど頑丈そうな黒い本革紐に、小さな金色のチャームが通されていて、裏にはローマ字で名前が刻印されている。液晶越しの映像でもビビッときたけど、実物を見ると益々テンションが上がって、語尾を上ずらせながらチョーカー片手に影縫に駆け寄った。
 
「……何?」
「ほらっ、あんたにプレゼント。名前入りのチョーカーだよ~」
 
 今夜のおかずは何にしようかなと、料理本を熱心に眺めていた影縫であったが、あたしの言葉にピンッと耳を立てて、食い気味で顔を上げて来た。おっ、何気にいい反応?
 さらにチョーカーを見てぱああっと目を輝かせ、「俺に?」と頬を高揚させて聞いてくる。まさかここまで嬉しそうにすると思わなかった。てっきり「ふーん」程度で終わるモンだと思っていたあたしまでさらに嬉しくなってきて、思わず表情筋がユルユルになってしまう。
 
「だからアンタにあげるんだって。つけてみな?」
「ありがとう」
 
 チョーカーを手渡された縫は、すぐにそれを首にぶら下げていた。うん、やっぱり似合う。コイツのためにデザインされたんじゃないかと思う。買ってよかった~。
 
「いいじゃんいいじゃん、すっごく似合ってるわよ影縫~」
「……ホント?」
「ホントホント! 美猫に拍車がかかってる。写真撮って皆に見せびらかしたいぐらい」
「……写真苦手なんだけど……」
「分かってるって。言ってみただけよ」
「……でも、仁亜が撮りたいなら、一枚ぐらいいいよ。コレ、くれたし」
「えっ!?」
 
 いきなりどうした!? 何、チョーカーがそんなに嬉しかったの!? 大サービス発言に驚いて素っ頓狂な声を上げてしまったが、それも無理はないってモンだ。
 だって、猫全般に言える事なのだが写真が苦手な子が多く、影縫もその例に漏れない。特にコイツの場合はそれが顕著で、それまでどんなに油断していてもカメラを向けた瞬間にふいっと顔を背けて逃げ出したりするのだから、撮影は困難を極める。そのうち「ああもう、コイツは写真に向かない猫なんだ」って、撮影自体に挑戦するのを諦めていた程だから、急なチャンスに戸惑うしかない。
 
 それでも何とか影縫の気が変わらないうちにと、急いでスマホに手を伸ばした。カメラを向けても逃げない視線を逸らさない姿勢に感動しつつ、一枚納めさせて頂く。特に愛想もなく、なんとなーくこっちを向いてるだけの写真なんだけど、コイツの場合はこれすらもレアなのだ。当然壁紙決定だ。気付かれないようにコソっと後で設定しておこう。
 
「はい、ありがとー」
「ん……」
「でもどーしたのホント。写真撮っていいとか、縫らしくない」
「……俺には首輪、くれないのかなぁって、思ってたから……」
 
 嬉しかった。ちょっぴり口元を緩めて指先でチャームを弄りつつ、影縫はそう言った。ビックリした。コイツ、首輪が欲しかったんだ。そんなそぶりも見せなかったし、そういうのに拘らない性質だと思ってたから、まさかそんな事を考えてるだなんて思いもしなかった。
 
「他のヤツが飼い主に首輪貰ってるの見て、ちょっと羨ましかった。パートナーって、認められてる感じで……」
「何よもう。欲しいなら欲しいって言えばよかったのに。あたしてっきり、窮屈で嫌かな~、と思って、買わなかったのよ」
「……そうだったのか?」
「そうよ。別にあんたの事嫌いだとか、認めてないとか、そういうのじゃあぜんっぜんないのよ? むしろもう縫が居ない生活なんて考えられない」
 
 照れるやら、恥ずかしいやら、嬉しいやら、色んな感情がごっちゃになった顔で下を向いてしまった縫は、しかしその後ふわりと笑って、もう一度「ありがとう」と言った。
 それ、反則でしょうよ……。あたしは思わず顔を覆って俯いた。
 
 愛猫の素直で可愛い瞬間は、あたしの心の中に永遠に焼き付けておく事にする。コイツのこんな顔は、他のヤツに見せびらかしてしまうのは勿体ないのだ。

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