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REVERSE Spring tour 2021 -迎えに来たよ、お姫様- その裏側

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「で、話って……」
 武蔵が出て行ってややあった後、相も変わらずスマホゲームを続けつつ影縫が切り出した。すると、ソファのほん左隣りがきしりと音を立てる。どうやら対面に座っていたユキが移動してきたようだ。
(……これは……)
 さらに体温を感じる程の距離まで身を寄せられて、彼は相方が今何を考えているか悟る事となる。ちらりと画面から視線を持ち上げれば、無駄に美しいご尊顔が目の前に。とりあえず手のひらを挟んでそれ以上の接近を阻止しておいた。
「……おい、紅はどうした」
「紅さんには今日会えねぇもん」
「だからって毎回俺を代わりに使うな」
「そんな事言ってぇ。影縫も満更じゃないクセに~」
 ユキの彼氏(兼事務所の社長)の名前を口に出してはみるものの、さして罪悪感もない様子でかわされてしまう。
「ちょっ、と……ユキ、だめだって……」
 邪魔な手をひっ捕らえたユキが、水かき部分に舌を這わせた。生々しい濡れた質感に、ひくりと手のひらが戦慄く。その反応に嬉しそうな笑みを一つ零し、さらに熱心に指を舐めしゃぶっていく。
 ライブステージ上は日常から切り離された異空間だ。何千、何万という熱狂的な視線と塗りつぶされそうな程の声援が、自分達ただ二人だけに注がれ続けるのである。その熱波はどう足掻いた所で、心を、体を、ひどく高揚させる。
 その昂りを鎮めるため、ライブ後に体を求められる事が今まで何度もあった。切り出すのは決まってユキからだが、影縫も影縫でライブ後の人肌が有難い事に違いは無く、また彼は態度に出ている以上にユキの事が好きなため、ダメだと思いつつも強く拒否出来なかった。
 最初は可愛いヌキっこ程度だった。だけどそれが回を重ねるうちに徐々に過激になっていき、今では関係者が聞けば卒倒するような事までしてしまっている。
「ぁ……こんな、所で……誰か来たら……」
「そのために武蔵さん立たせてるでしょ?」
「だからっ! その武蔵に聞かれたらっ……!」
「大丈夫だって。俺が人近づけたくないって言った時点で自分も距離取っただろうし、もしか聞こえた所であの人なら空気読むでしょ」
 指を咥え込み、わざとらしく音を立ててピストンさせるユキ。その動きと、唾液で滑った締め付けが、嫌でも別の行為を想起させた。下肢に燻り始める情欲に、影縫の瞳に涙の膜が張っていく。
「それに……」
 ちぱ。口を離したユキが、影縫を上目に捕らえて挑発的に笑った。
「指舐められただけでそんな顔して……今何想像してんの?」
 王子様の仮面が剥がれかけた雄っぽい表情に、ぞぞぞっ、と、背筋が震えあがった。
 
 影縫は性格こそアイドル向きではないのだが、容姿に恵まれており、踊りのセンスが良く、持って生まれた舞台映えする素質があった。そのため事務所社長の懇意にされ、他と比べてメディア露出の機会も多く与えられ、アイドルとしてのキャリア自体は順調に積み上げていた。
 だが、本人が業界に対してがっついていない、気乗りせずとも出来てしまう、というのは、周囲からすれば相当鼻についたのだろう。口に出さずとも同業者から感じる比較競争の意識に加えて、直接的に妬み嫉みを向けられる事もあり、舞台に立つ事以上にそれらに辟易していた時期もある。
 そんな時、掛け値なしに影縫と接してくれたのが、ユキだった。
 当時からユキは、頭一つどころか二つも三つも突出したエースだった。容姿は勿論の事、歌も踊りも舞台でのセンスもトップクラス。その上大人達に可愛がられる社交性もあり、業界で自分がどう立ち回ればいいのか考えられる賢さすら持ち合わせていた。つまらないやっかみも、彼にだけは向ける気が失せるレベルの絶対的アイドル。スターダムが約束された存在。ユキはそういう位置に居た。だからこそ、影縫に対して負の感情を向ける必要が無かったのだ。
 嫉妬をせず、かといって自分の才能をひけらかしてくる訳でもない。ただ同じ場所に居る仲間として、対等に接してくれる。そんなユキの存在が、辛かった時期にどれだけ救いになったか分からない。だから影縫にとってもユキは「アイドル」だった。真っ直ぐでピュアな天才の隣に、今たまたま自分が立たせて貰っているが、だからといってユキと自分が同じ位置に居るとは思わない。いつまで経ってもユキは、その後姿を眩しく眺める敬意の対象だった。
 
 だから、そんな人を
(ユキに……こんな事、させちゃってる……♡)
 自分に跪かせて、足指にキスさせるなんて、影縫にとっては頭がクラクラするような状況なのだ。
(ぁ、あ……♡ こんな音立てて……足なんて、汚いのに……♡)
 さっきまで女の子達が涙ぐむ程のときめきを与えていたユキが、まるで一本一本掃除するように自分の足を舐めている。丁寧に、愛おしそうに、主人に奉仕するように、足指をしゃぶっている。いくらシャワーを済ませた直後であっても、本来なら絶対こんな事させちゃダメな人。きれいで真っ白できらきらして、絶対汚しちゃダメな人。そんな人が、今、自分の……
「……そんなに興奮する?」
 影縫の呼吸が上がっている事に気づいたのだろう。一旦指舐めを切り上げたユキが、足の甲に頬ずりしながら笑った。
「影縫ってそういう所あるよな。ムッツリっていうか、変態っていうか」
「ち、ちが、ぅ……ユキが、へんなことするから……」
「ヘンな事されてちんぽおっ勃たせてるくせに~♡」
 不自然に主張するジャージの前を指摘されれば、もう何も言えずに俯くしかない。その反応に面白そうな顔をして、ユキはもう片方の足を掬った。
「ほら、コッチも舐めてあげるから……本当は俺にさせたいと思ってる、もーっと過激な事、想像してみて?」
 かぱりと口を開き、口内を見せつける。唾液がテラテラと絡む真っ赤な舌と、白い肌とのコントラストが卑猥で、目が釘付けになってしまう。
「こーやって……」
 ちゅっ。リップ音を立てながら、親指の先端に唇が吸い付いた。
「まずは、さきっぽ……ん……ていねいにしゃぶってぇ……」
 柔らかな唇が蠢き、舌先がぬるぬるとつま先を撫で回す。ピンク色の艶やかな割れ目に、自分の体の一部がにゅぷにゅぷと侵入しようとしてているのだ。どうしたって淫行を連想させるその映像に、影縫の腰がゆるりと浮き上がる。
「はーっ……つぎは、うらっかわ……♡」
「ンっ……♡」
 ぺったりと押し付けられた舌が、土踏まずから指の腹まで這い上がってくる。くすぐったさも相まって、堪らず喉奥から声が零れた。
「そんで最後に……奥まで♡」
 唇と、舌と、口内の粘膜に抱きすくめられながら、親指が根本まですっぽり覆い隠れていった。
 ちゅっ、ちゅぽっ、ちゅぽっ、ちゅぱっ♡ お手本のような瑞々しい唇に、指が埋められたり抜き取られたり。そうされると親指がまるで別の何かのように見えてきて、ユキの一挙手一投足から目が離せない。浮いた腰が、どうしても我慢出来ずにゆらゆら揺れてしまう。
 あの唇を自分のペニスで抉じ開けて、生暖かく湿った口内に、思いっきり腰を打ち付けられたら……。どんなに気持ちいいんだろう、どんなに征服欲が満たされるんだろう。頭の片隅でちらりとそんな事を考えて、体の芯が熱く脈打った。
「ゆ、きぃ……♡ もぉ、やだ……っ♡♡ 足ばっか、やだぁ……♡♡」
 でもそんな欲求とても口には出せなくて、せめて甘ったれた声で先を強請る事が精一杯だった。
 優しい締め付けと共に、親指が唇から露出していく。最後に指先と舌先とに唾液の糸が結ばれて、ユキが顔を上げると同時に、ぷつんと途切れた。
「ねぇ、教えて? さっきから何想像してんの?」
 指の股をくすぐりながら、先ほどの質問を再度投げかけるユキ。恥ずかしさから、右へ、左へ、目線を泳がせた影縫であるが、ややあって観念したかのように瞼を伏せた。
「ゆ……ゆき、に……フェラ、されてるところ……♡」
「……ふふっ……♡ そんな事想像してたんだ? 影縫のすけべ♡」
 お目当ての一言を引き出して満足気にしたユキが、ようやく身を起こした。
「じゃあシックスナインしよ。影縫が上な」
「……今日も、最後までするの……?」
「別に影縫がしたくないならしないけど。どっちがいい?」
「ぅ……わかんない……」
「……ふーん……わかんない、ねぇ……♡」
 あいまいな返事に目を細めつつ、影縫に自分の体を跨がせる。ジャージを下ろすと下着の先端部分がいやらしく湿っていて、影縫が、ただの指舐めで想像以上に体を昂らせている事が伺い知れた。
「濡れてんじゃん。そんなに興奮した?」
「ユキだって勃ってるだろ!」
「うん。影縫が頭ん中エロい事でいっぱいにしてんだろーなーって思ったらすっげぇ興奮した」
 しかしユキの舌は、切なく先端を濡らしているペニスではなくそのほん後ろの会陰部へと。左右にふっくらとした盛り上がりを見せている中央のラインを、舌面で大きく舐め上げた。
「ひっ!?♡ ゆき、っ、ちょっ……!♡」
「なぁに? ほら、影縫も舐めて」
 想いもよらぬ刺激に戸惑う影縫に向けて腰を浮かせ、行為の先を強請る。
「ぅ……♡ は、ぁ……なめへ、くれぅってぇ……♡」
 先端を咥え込みながら、もごもごと非難の言葉を口にする影縫。可愛いのとこそばゆいのとで、思わず笑いが零れた。
「舐めてるでしょ?」
「そうじゃらくてっ……! フェラ、ひてくれうって……♡」
「シックスナインとは言ったけどフェラとは言ってないんだよなぁ」
「んぅっ♡」
 ペニス先端の割れ目に、ぬるぬると中指を擦り付けるユキ。いよいよそこを刺激して貰えるのかと影縫が下肢を強張らせたのだが、しかし期待させるだけさせておいて、指はすぐに後孔へと向かっていってしまう。濡れた指先が、快感を期待してひくつく窄まりを擽った。
「ほらココ♡ 女の子の入り口の所舐めながら、影縫のこっちも女の子穴にしてあげるから……ナカで気持ちよくなる感覚思い出そ?」
「ふ、うぅ♡ う、うぅ……っ♡♡」
 会陰舐めで内側の奥まった部分を焦らしながら、先走りを掬っては塗り込み、掬っては塗り込み、そんな事を繰り返されるうち、貞淑だった蕾も徐々にほころび始める。その瞬間を見計らい、中指が入り口を掻き分けた。
「ッくうぅぅ……!!♡♡」
 途端、ユキに何度も教えられた女性的な快感を体が思い出し、影縫の瞳がとろんと蕩けた。
 少し押し込めば肉の輪が内側に埋もれて、少し引けば外側に引っ張られる。そんな卑猥な締め付けを見せる秘所を弄られると、内側に繋がる穴もないくせに、会陰部がきゅんきゅんと疼き出す。ユキの舌がしつこくそこを弄ぶ度、切なさは慰められるどころかむしろ内側で膨らむばかり。既に味を占めてしまっている体は、その奥の気持ちいい場所を刺激しろと持ち主をせっついてくる。
(もっと♡ もっと♡ もっと気持ちいいの欲しい♡ もっとぉ……!♡)
 ちゃんと触って貰えぬままローション代わりに使われるペニスも、入り口ばかりをじれったく解されているアナルも、両方がもどかしく、堪らず尻をふりふりと揺らしてしまう。
「影縫だーめ♡ そんなにお尻振ってたら発情期の猫みたいでみっともないよ?」
「んんっ!♡♡」
 そのはしたない様を、ユキの手のひらが優しく叩いて叱咤した。じんと広がる甘やかな痺れに、影縫の腰が跳ね上がる。
「ほら、ちゃんと俺のちんぽしゃぶりながらおまんこ差し出してじっとして♡ ゆっくり優しく開いてあげるから……♡」
「ひんっ♡ ひあぁ……!♡♡ あ、あぁっ♡♡」
 そして一転、手のひらで丸みを包み込むように撫で回せば、とろっ、とろぉっ♡ と、濃い先走り汁が涎のようにペニスから零れ落ちた。
「ん? もしかして叩かれんの気持ちいい?」
「っくうぅ♡♡」
 それを目にとめたユキが、再度尻を叩いた。嬌声と共に、きゅんっ♡ と、内壁が指を締め付けてくる。どうやら影縫の体はこの刺激をお気に召したようだ。それならばという事で、優しく、何度も、手のひらを打ち付けてやる。痛みを与えるのではなく、被虐心を煽る程度の軽い力で。
(やだ♡ やだっ♡ こんなので、きもちよくなるの、嫌なのにぃ……!♡♡)
 尻を突き出す恥ずかしい格好で、小さな丸みが叩かれる度、うずうずして堪らない股の間を振動が駆け抜ける。しばしその刺激に酔いしれていると、今度は擽るようなタッチで微細な痛みを慰められる。頭の片隅でその快感を拒みつつも、その実体は正直で、大人しく股座を差し出すのを止められない。
(あ、ぁ……♡ ユキの指、どんどん奥まで入ってきてるっ……♡♡ きもちいいトコきちゃう♡ いつもの、へんになる所っ、コリコリされちゃうぅ……ッ♡♡)
 腸壁も嬉しそうに肉の合わせ目を開いていき、ユキの指に肉ヒダを甘えさせ始める。細長い指が、奥へ、奥へと侵入してきて、今にも核心に触れられそうな予感に、心臓がどきどきと高鳴っていく。
「ッ~~~~~!!♡♡」
 尻を叩かれると同時に、指先が前立腺を押しつぶした。いよいよ訪れた快感に影縫の背が弓なりにしなり、一瞬腰が逃げそうになる。
「ダメ。大人しくして」
 しかし腿に手を回してそれを阻止するユキ。腰を動かせないようにホールドした状態で、会陰を舌で解すように愛撫しながら、コリコリにゅちにゅちと内側の弱点を揉み解していく。
「ひ、ふぁ♡ ゆ、き♡ それ、っ、それよわいの♡♡ あっ♡ ぁっ♡ は、あぁぁ♡♡」
「うん知ってる♡ ここ気持ちいいよな♡ 特におまんこの場所舐められながらされると、ほんとに女の子になった気分になるんだよなぁ……♡」
「あぁぁ♡ だめ♡♡ ひゃうぅう♡♡ りょおほおからされるのっ、へんらるからあっ♡♡」
 会陰部を舌で、腸壁を指で愛撫される、前立腺のサンドイッチ責め。ユキの言う通り、女性の悦びを疑似的に体験させられている感覚に陥った。ほったらかしにされているペニスも浅ましく首を振りたくり、涙のように先走り汁を零し始める。
(こんなの奥まで開いちゃう♡ 今日もユキに女の子にさせられちゃう♡ 気持ちいい♡♡ ユキの指、気持ちいいよおぉ♡♡)
 注がれ続ける快楽に腸壁は綻んで、ユキの指が滑らかにストロークし始める。前立腺を押しつぶしながら根本まで押し付けて、奥でゆったりと円を描いた後、また前立腺を引っ掻きながら抜けていく。
 大好きなやり方でセックス準備を整えてくれるユキに対し、下腹が本当に女の子になってしまったかのようにときめいて仕方ない。今まさに狭い口で味わっているペニスが愛おしく感じ始めてしまい、口淫にも熱が籠っていく。そのおかげで、興奮に息苦しさも加わって、思考がぼやける。視界が潤む。理性的な判断を下せない影縫の脳味噌は、本能に忠実に体内の質量に追いすがり、そこから得られる快感で絶頂を得ようとし始める。
(このままイったら、また、最後まで……っ♡♡)
 根本から先端まで、懸命にペニスを愛しながら考える。
(このちんぽで、最後まで、されたくなっちゃう♡♡ ユキのちんぽ欲しくなる♡♡ ユキとセックスしちゃうぅ……!♡♡)
 幾度となく教えられたアナルセックスのせいで、もう体は完全にユキのペニスの味を覚えてしまった。口内で滾りを思う存分感じながら、逃げられない会陰と前立腺をひたすら揉み解されるだなんて……。こんなに意地悪で気持ちいいやり方でイかされたら、今日も最後まで欲しくなってしまう事は容易に想像が出来た。ユキ専用の女の子にさせられてしまう予感に、体はぞわぞわと波打って、足指がきゅっと丸くなる。
 こりゅこりゅこりゅこりゅこりゅっっ♡ 影縫の気を知ってか知らずか、ユキの指先が素早く前立腺を扱き始めた。
「ッ!?♡♡♡」
 その瞬間一気に絶頂感が膨れ上がり、お腹の奥から胸の裏側まで甘い電流が駆け抜ける。
「やっ、やらあっ!♡♡ それッ……!♡ ゆきっ、ゆきいっ♡♡ うしろだけでイくのやだっ♡♡ ちゃんとちんぽも扱いてえッ♡♡」
 ペニスから口を離し、ぱさぱさと髪を振って身悶えるも、ユキが止まる気配はない。
「だぁめ♡ 折角ナカでイけそうになってるのに、ちんぽ使っちゃ勿体ないでしょ? まずは一回メスイキして、俺のちんぽハメる準備万端の体になろうな♡」
「や、っ♡ 何で最後までする事になってッ……ひぉっ♡ だめだめぇッ!♡♡ いっ、く♡ いくっ♡ いくッ♡♡ イっひゃうぅッ♡♡ あッ♡ あッ……んんンンッ―――~~~~~!!♡♡♡」
 影縫の膝下が浮き上がって突っ張った。降り積もった快感が下腹で弾け飛び、頭が真っ白になる。射精よりも強烈に尾を引くメス絶頂は、何度経験しても慣れるどころかどんどんオーガズムが深くなるばかり。
「あっ!♡ アっ♡♡ ああぁッ♡♡ らめ♡ めひゅいきっ、ひゅごいぃ♡♡ あぁぁっ……ッひ、くうぅうッ……!!♡♡」
 頂点を過ぎても長々と続く余韻アクメに翻弄されて、ユキの眼前で細腰が悩ましくくねった。断続的に跳ね上がる赤みを帯びた尻肉も、ヒクヒクと律動しながら不完全に精液を垂れ流すペニスも、いかにもナカでイきましたといった光景でとても卑猥だ。その上内壁は気持ちよくイかせてくれたユキの指に甘え切り、ちゅぱちゅぱと肉ヒダを絡みつかせている。
「えっろいイキ方……♡」
 堪らずユキの口から、情欲に濡れた溜息が零れ落ちた。
「はあぁぁ……ッ♡ はー……っ♡♡ あぁぁ……!♡♡」
(今日もユキに……女の子イキ、させられちゃったあぁ……♡♡)
 ようやく波が落ち着いた頃になって、影縫はほぼ無自覚のまま竿に頬をすり寄せた。今日もまた気持ちよくメスイキさせられて、後はもう、心も、体も、ユキの事を受け入れるだけの態勢になってしまったのだ。
 脱力した体を横向きに寝かし直される。ゴムが開封される生々しい音が期待と一抹の不安を煽って、ちらりと、ユキへと視線を縋らせた。
「ぁ……♡」
 その時の、ただの男になった色気のある表情ときたら。
 女子すら霞むような中性的な美しさと可愛さで売っているクセに、セックスの時だけこういう顔をするのは、卑怯だ。
「……どう? 影縫は最後までしたくない?」
 薄く笑んだユキが、小さく首を傾ける。アシンメトリーな髪の一束がさらりと揺れて、蛍光灯の明かりが透き通り、こんな欲にまみれた状況でも、それは凄く綺麗だった。
「そんなの、いまさら、聞くなぁ……♡」
 もはや断れるはずもなくて、事実上の合意を返した。ユキがもう一度目を細め、ぬるりと会陰をペニスが滑る。
「テメェのファンの子達が裏側知ったらぶっ倒れるんだろうなぁ」
「ふっ……♡」
 先端が、柔らかく整えられたぬかるみを捉えて音を立てた。
「浮いた話なんて全然無いように見える影縫君が、実はマネージャーと付き合っててぇ……」
「あっ、んうぅう……ッ♡♡」
 ぬるうぅぅ~~~……♡ 指より大きくて熱い質量が、肉ヒダを掻き分けながら体内を侵す。
「おまけに相方と、ずっぶずぶのメスセックスまでしちゃってんだから~♡」
「くひいぃいッ!!♡♡」
 ごりごりごりっ♡♡ 硬い竿で前立腺を弄ばれ、影縫の声がひっくり返った。
(これっ、だめ♡ やばっ♡♡ 弱いトコ、ずっと当てながらッ……!!♡♡)
 そのまま入れては引いて、入れては引いて、弱点を圧迫されながら肉壁を開かされる快感に身悶えるうち、亀頭は程なくして最奥へとたどり着いてしまった。
「最近は奥でも感じられるようになったもんな♡ ココでいっぱいキスして深イキしような♡」
「んんっ!♡ っくうぅ♡♡ ふ、ぁあ♡♡ やら♡ ぁっ♡ ふかいの、だめ♡♡ っあんん!♡♡」
 そう言いつつも、ナカはしっかりとユキの事を抱きすくめていて、結腸口もゴム越しペニスにちゅっちゅと吸い付いている。体は熱の侵入に喜んでいる事は明白だった。
 さらにユキの指がパーカーの中に侵入して乳首を捉えると、連動するかのように一際腸壁が締め付けられた。小ぶりな肉芽を転がしながら、何度も何度も最奥でのキスが繰り返される。影縫は深すぎる快感から無意識に逃れようとするきらいがあるが、そこは当然のようにユキが腿を拘束。さらに深々と腰を打ち込んで、奥を暴かれる気持ち良さを植え付けていく。
「あっ、おぉぉッ♡♡ ちくびといっしょに、っ、しないれえぇっ♡♡ おっ、おなかおかしくなりゅっ♡♡ んんっ♡♡ おまんこへんにらるうぅぅ……!!♡♡」
「ヘンになっていーよ♡ 俺のちんぽでヘンになって♡」
 ぱちゅっ♡ ぱちゅっ♡ ぱちゅっ♡ ぱちゅっ♡ 徐々にストロークが大きくなっていき、蕩けた膣内に肉棒が打ち付けられる音が響く。
 熱い質量が、奥に力強く吸い付いては愛液を引きながら離れていく感触が気持ちいい。大きく足を開かされ、されるがままでペニスを受け入れているこの状況が本当に女になったみたいで、その普段は絶対に味わえない感覚すらも快感に直結していく。ユキに揺さぶられるうち、影縫の顔も体も真っ赤に染まっていき、汗ばんだ頬には髪の筋が散らばり、緩んだ口元からは唾液に濡れた舌がチラチラと。普段涼しい顔をしている分、男に組み敷かれてセックスの快感に乱れている様は酷く扇情的だった。
「ひっ!♡ ひぁっ♡♡ あっ♡ あぁあッ♡♡ あぁっ♡♡ んあぁ゛あッ♡♡」
(これっ♡ やばい♡ やばいっ♡♡ ヨすぎて声とまんないっ♡♡ 喉痛められないのに♡ ここ楽屋なのにっ♡♡ 武蔵にも、聞こえちゃうかも、しれないのにぃ……!!♡♡)
 自分の意思ではどうにもならない官能に弄ばれ、心身を火照らせながらみっともなく声を上げている影縫を見下ろして、ユキがごくりと喉を上下させた。
「はぁっ……いいなぁ……♡ 俺も明日紅さんにやってもらおー……♡」
 そのうわ言のような呟きで、影縫の体温はさらに上昇する事となる。
(ユキも、こんな事、されるんだ……♡)
 事務所社長の赤髪が、ユキの事を自分のモノにしている、そのシーンが脳内をチラついたからだ。
 今回だけではない。こういう事をする度に、毎回脳裏を掠める事だった。だってユキが男とのセックスを知っているのは、つまり誰かに教えられたから。自分が今まさにされている事を、ユキも別のどこかでされているから。そんな事考えちゃダメなのに。ダメなのに。そう思えば思う程、頭は勝手にユキの痴態を思い描いてしまうのだ。この人は恋人に抱かれるとき、どういう顔をするんだろうか。どんな声を出すんだろうか。綺麗でいい匂いがする王子様、皆の羨望の的になっているユキを、自分一人の欲望のためだけに足を開かせて、ペニスをねじ込んで腰を打ち付けて、無様に喘がせてやる高揚感はどれ程のものなのだろうか。計り知れない。
(ユキの事、抱いたりしたら……ッ♡♡)
 そしてそれを、もし自分がする立場だったらと思うと。
 全身の血液が沸騰しそうな程興奮した。
「ッあ……ちょっ、締めすぎっ……!♡」
 堪らず内壁をきゅーんと引き絞ってしまい、余裕なく呻いたユキの動きが止まる。しばしそのまま波をやり過ごし、深く息を吐いてから、彼はそっと影縫の耳元に顔を寄せた。
「……影縫さぁ……もしかして俺の事抱きたいと思ってるでしょ?」
「っ♡」
 全てを見透かしたような詮索に、影縫の肩が強張った。咄嗟にソファに頬をすり付け表情を隠そうとするも、まるで「やましい事が知られてしまいました」と白状しているような仕草でしかなかった。
「お、おもって、ない……♡」
 きゅんっ。再度胎内がユキを抱きしめた。この期に及んで素直じゃない口に反して、あまりに素直すぎる体の反応に笑いが零れる程だ。
「別にいーよ隠さなくて。事実俺も影縫にこんな事してんだからお相子でしょ?」
「んん゛ッ!!♡♡」
 一度大きなグラインドで影縫を喘がせてから、結腸口と亀頭をぺったりと触れ合わせたまま、右に、左に、腰が捻られた。敏感な粘膜がぬちゅぬちゅと擦られる刺激は耐えがたく、指先がファブリックを引っ掻く。
「でもなぁ、俺の事抱いていいのは紅さんだけだからなぁ……♡」
「だっ、からあっ♡ おもっひぇ、ないぃッ♡ あっ♡ あんんっ♡♡ へんな、ことっ、いうなあッ♡♡」
「ただ……他でもない影縫からお願いされたりしたら、さすがに考えちゃうかもな~……♡」
「んッ♡ んうぅ♡♡ んっ♡ んんっ♡♡ くうぅぅっ♡♡」
 耳元でぽそぽそと掠れた声を吹き込まれ、影縫の目は今にも泣き出しそうな程蕩けていった。こんなの酷い。体の内側を刺し貫いて支配しながら、やみくもに期待を煽るような事を、色の籠った声で言ってこないで欲しい。本当はそんな気さらさら無いくせに。セックスを盛り上げるための道具に使いやがって。
「ほら、手のひら貸してやるから、俺にハメてるつもりで腰振ってみな? さっき思いっきりちんぽイキ出来なくて辛かったでしょ? ぜーんぶ俺の中に出していいよ♡」
 さらにやんわりと竿を包み込まれ、根本から先端までがじんと甘く痺れた。ユキの言う通りだった。先ほど不十分な射精しか出来なかったペニスはさらなる刺激と絶頂を求めており、それが不本意だとしても、手のひらで作られた筒に向けて腰を突き出してしまう。
「あっ♡ ぁっ♡ んっ♡ ふうぅっ♡♡」
 腰を振る度ユキの手筒に竿が扱かれて、さらに後孔に咥え込んでいるペニスがイイトコロを押し潰す。奥は相変わらずユキのペニスでかき混ぜられており、乳首もやわやわと転がされている。その上
「影縫……すっごく気持ちいいよ……♡」
 耳朶に押し付けられたままの唇から吐息交じりの声が流し込まれ、脳から脊椎にかけてゾクゾクと快感が走った。
「あぁ……♡ 影縫のちんぽすっげぇイイ……♡ あっついのが奥まで届いてヘンになっちゃいそぉ♡♡ ん♡ 俺の中そんなにほじくり回してぇ♡ そんな遠慮なくズコズコされたら影縫の形になっちゃう♡ こんなガチハメバレたら紅さんに怒られちゃうよぉ……♡」
「もおっ、それやめろおッ♡♡ へんなことばっかいうなっ! ゆきのばかっ! ばかあぁッ!!♡♡」
 体の中を捏ねられるのも、ユキの手のひらに腰を打ち付けるのも、想像を掻き立てるような言葉を流し込まれ続けるのも、何もかもが神経を乱して堪らない。もう頭の中がぐちゃぐちゃで、影縫は涙腺を緩ませながら駄々をこねるように喘ぐ事しか出来なかった。
「んな事言ってもうイきそうじゃん♡ はぁっ……♡ ナカで影縫がビクビクしてる♡ 俺の中に出すの? いいよナマでちょうだい♡ いっぱい中出しして俺の事孕ませて……?♡」
「ッ~~~~~~!!♡♡♡」
 最後の一言が決定打となり、腰を大きく突き出して動きを止める影縫。一瞬声を失うような絶頂感に、ちかちかと視界が明滅する。
「ぁッ、すっご……熱いのいっぱい出てる……♡ そんなに俺に種付けしたかったの? 一丁前に雄み出しちゃってえっろ……♡」
「ッ、く♡ うぅぅ♡♡ あっ、ひはぁぁ……ッ♡♡」
 手のひらで感じる大きな脈動と、たっぷりと吐き出される白濁とに、ユキも少なからず胸の袂が疼いた。いつも大人しく組み敷かれているように見えた相方の、自分に対しての秘めたる劣情を垣間見た気がしたからだ。業界関係者から幾度となく向けられてきたそれは不快でしか無かったが、影縫に関しては悪い気がせず、むしろ扱いづらい猫に懐かれている証明のようでどこか微笑ましくすら思えた。気分が良くなる。と同時に、先ほどから内壁にもみくちゃにされっぱなしの自身もそろそろ限界を訴えてきた。
「んあ゛ぁ゛ッ!!♡♡」
 ばちゅんっ!♡♡ 力強く奥を穿つと、まだまだ余韻の中に居た影縫が喉を晒した。その一突きを皮切りに、肉がぶつかり合う音が部屋中を支配する。
 もう胎内はユキのペニスと境目が無くなるくらいに馴染み切っていて、出し入れする度にとろとろの肉ヒダが絡みついて来る程だった。こうなるとユキは当然気持ちがいいが、影縫も相当な快感だろうと思う。逆の立場になった時を想像すると良く分かる。
「あッ♡♡ お゛ッ♡♡ おぉッ♡♡ ゆ、きっ♡♡ ゆきいッ♡♡ ひおッ♡♡ んあ゛ぁ゛ッ♡♡」
 最初は形ばかりの拒否をして、声も堪えがちな影縫が、自分とのセックスに翻弄され、最後には動物のように喘ぎ始めるこの瞬間がユキは大好きだった。涼し気で、気だるげで、常にやや低めのテンションを保っているこの相方が、普段からは想像もつかないような醜態を晒してメスの快感に酔いしれているのだ。自分の手管とペニスでそこまで乱れられて、男としては嬉しくない訳がない。腰の動きもついつい早くなってしまう。
「おッ、ひ♡♡ ひにゃあ゛ぁ゛♡♡ ひゅごっ♡♡ んお゛ッ♡♡ はやいの、ひゅごいぃ♡♡ あぉ゛ッ♡♡ おぉ゛おッ♡♡」
「あーもう、ぐずぐずになった喘ぎ声可愛い……ッ♡ でも声出なくなるとダメだから……塞いどこっか♡」
「ふうぅ゛ッ……♡♡」
 名残惜しそうにしながらも、ユキが影縫の口に吸い付いた。
 初日が終わったとはいえツアーはまだまだこれから。楽しみに待っているファンが大勢いるというのに、まさか片割れの喉を傷めさせる訳にもいかない。本当はナマでしたかったけど、ゴムを付けたのもそれが理由。プロである手前、さすがに考え無しには動けない。
 ただ、キスしながらのラストスパートは思いのほか影縫の好みにハマったようで、きゅっと背中に腕が回された。浮いた膝も甘えるようにユキの体に擦り寄せられている。いよいよ快感が深くなった中でのキスハメが、恋人同士のそれのようで気分が盛り上がるのだろう。変に擦れていない分、影縫はこういうストレートな抱き方に弱い。
(きもちいい♡ きもちいぃ♡ もお、あたまクラクラして、よくわかんないぃぃ♡♡ ユキで全部いっぱいになってる♡♡ 頭も、お腹も、口の中も、ユキの全部きもちいい♡♡ ユキにされるの、気持ちよすぎるうぅ……!!♡♡)
 互いの口内を舌で行き来しながら、深い部分で繋がる興奮が、先ほどの射精とは全く別の絶頂感を連れてくる。
(ユキがおっきくなってる♡♡ イく♡ イきそお♡♡ ユキに中出しされちゃう♡♡ 中出しでイっちゃう♡♡ イっちゃうぅぅ♡♡♡)
 いつの間にか正面からぴったり密着するようになった体勢で、四肢をユキに思いっきり縋り付かせた。匂いも、味も、体温も、全部ユキに包まれている。ユキの事しか考えられなくて、愛おしくて、気持ち良くて、もう何もかもどうでもいい。
「ひゅ、きい♡♡ ッもぉイくッ♡♡ イクッ♡ んっ♡ んんッ♡♡ い、っひゃ♡ うぅぅッ♡♡ いッく――――~~~~ッッ!!♡♡♡」
「ンッ……!! かげぬい……!!♡♡」
 体の奥から込み上げる極地感に、影縫が髪を振りたくった。最奥でペニスを抱きしめながら迎える絶頂は、男として味わうそれとは全く種類が違う。体の芯が熱くなって、頭が真っ白になって、下っ腹でばちんばちんと快感のカプセルが弾け飛ぶ。長々と尾を引く多幸感にどうにかなってしまいそうで怖いくらいなのだ。そんなメスイキの衝撃に、ユキの肩に額を擦りながら耐えていると、ナカでペニスが大きく膨らむのが分かった。ドクンドクンとポンプのように痙攣して、熱い液溜まりが出来ていく感覚を内壁で感じ取る。
(ぁ♡ あ……♡♡ 出てる♡ ユキのが、中に、出てるっ……♡♡)
 自分達はあくまで偶像。だからこそ生々しい話は暗黙の了解でご法度だが、その実きっとこれが欲しい女なんて、吐いて捨てる程居るのだろうと思う。そう考えると、申し訳ないような、それでいてどこか優越を感じるような、不思議な心地にさせられた。ただ、実際はゴムの中に吐き出されていたとしても、不思議と腹の中が満たされるような充足感が得られる事だけは確かだった。
「はーッ……♡♡ すっげぇ、良かった……♡♡」
「ン……ッ♡♡」
 耳元で幸せそうな感想を頂きながら、萎えたペニスがずるずると腸壁を抜けていく。
「ぁッ……く、ぅ♡♡ ん、んッ……♡♡」
 いかにも敏感そうに充血した入り口を、精液でみっちり膨らんだゴムが通り抜けようと押し広げる。メスイキしたての体は少しの刺激にも弱すぎて、それすらも気持ちが良くて、内腿がぶるぶると戦慄いた。
「ひぅ、ぁ……あっ♡ ぁ、あ、あッ、んんん゛ッ……!!♡♡♡」
 にゅううぅ……ずるんっ♡♡ 太い部分が通り過ぎ、抜け落ちた瞬間に影縫の下腹が突っ張った。そのまま可愛らしく上下に痙攣し、鼻から悩ましい声が抜けている。どうやら引き抜く刺激だけで追加の甘イキをしてしまったらしい。小刻みに震える様を見て、ふ、とユキが目元を綻ばせる。
「そんなにヨかった?」
「ん……っ、かった、ぁ……♡」
 惚けたまま口内でのみ発せられた声は、ユキには意味を持って届かなかったが、股の間をグズグズに濡らしながらだらしなく横たわる様から察する事は容易だった。いかにも体の奥から蕩け切りましたといった様子が愛おしくて、ユキは再度唇を啄み、余熱までたっぷりと楽しませてやった。
 
 
 ◆
 
 
「あやしい」
 楽屋に繋がる通路脇の椅子に腰かけた仁亜が、ぶすくれた表情で端を発した。その隣には、律儀にも通路を塞ぐ形で立っている武蔵の姿もある。彼女は、ライブ後の雑務を済ませ楽屋に足を運ぼうとした所を、他でもない武蔵に引き止められたのだ。
「あの二人ライブ終わりは決まってなんかコソコソすんのよね」
「二人で反省会でもしてんじゃねぇの? やる気があって結構な事じゃないですか」
「マネージャーにすら聞かせられない反省会って何よ!! 誰のおかげで飯食えてると思ってんだアイツらは!!」
 その言い分に武蔵がぷっと噴き出した。さすがに仁亜のおかげという訳ではないと思うのだが、いい具合に図々しく、アイドルという商品と会社との板挟みで疲弊しないメンタルの強さは、実にこの仕事向きだとは思う。耳ざとく笑い声を聞きつけて、じとりと目線を流す仁亜。
「大体あんたはウチの会社に雇われてる立場でしょ? 雇用主が通せって言ってんだから通しなさいよ」
「残念ながら今の俺にとっての優先順位はアッチの方が上なんで」
「じゃあアタシとあいつらが同時に襲われたらあいつらを助けるの? 女を差し置いて?」
「極論やめろな?」
「極論じゃありません~。選択を迫られる事もあるだろって話です~」
 物理的な意味で二人を守る武蔵と、マネジメント的な意味で二人を守る仁亜。どちらもリバースを一番近い裏方で支える立場であるため、必然絡む機会も多くなる。両者性格がバッサリとしていてウマが合うという事も相まって、その会話内容は実に砕けた物だった。仲が良く、二人で並んだ絵面も様になるため、諸々の要素を総合した結果、スタッフからは影でこっそり「お父さんとお母さん」と呼ばれていたりもする。無論、二人はそれぞれにパートナーが居るので、愛称のようなものである。
「お」
 と、何かに気づいた武蔵が背後を振り返り、それにつられる形で仁亜も。見れば廊下の先から、ユキと影縫がこちらに向かって来る所だった。
「お疲れ様~っす」
「おう、もういいのか?」
「はいもうバッチリ。仁亜もお疲れ~」
「遅い! アンタらのせいで結局あたしまで待たされたんだからね!」
 噛みつく仁亜に対してユキはと言えば、何故怒られているのか分からないといった様子で首を傾げて見せた。
「じゃあ皆で帰れるから逆にちょうど良かったじゃん。四人で肉食いに行こー。ひとまずのお疲れ様会って事で」
「いや俺はさすがに無理だわ。会社戻って後始末やら何やらしねぇと」
「えーそうなんすか? じゃあ仁亜は一緒に来る?」
「……しょうがないから行ってあげるわよ。奢んなさいよ」
「やった決まりな。はいこれ仁亜の荷物」
 全く罪悪感のなさそうなお誘いと、純粋に嬉しそうな笑顔。さらに楽屋に行きたかった本来の目的まで渡されて、ぷりぷり言っていた仁亜も一気に毒気を抜かれてしまう。まぁよい。奢りに異論は無いようなので、稼ぎ頭に思う存分高い肉をご馳走させてやろうじゃないか。そう決意してから、スマホで店を探し始めたユキの後ろ、俯き加減で立っている影縫へと視線を移した。
「……あれ? 縫、あんたちょっと顔赤くない?」
 そこでふと、頬に赤みが差している事が気にかかった。指摘をしてみれば、影縫は慌ててマスクをずり上げてしまう。
「っ、赤くない」
「おい何で隠した? もしかして体調でも悪いんじゃないでしょうね? まだ始まったばっかなのに勘弁してよ?」
 その言葉を聞きつけて、武蔵もちらりと顔を覗き込み、ほんとだ、と。
「大事とって病院行っとくか? 次まで何日かあるし早めに薬貰って安静にすれば治るだろ」
 まだ先の長いツアーの主役なので当然の事だが、二人はいつも以上に影縫の事を気にかけてきた。本当はユキとやましい事をした余韻が抜けきっていないだけなのに、そんな表情を二人から心配される居心地の悪さたるや無かった。返答に困って下を向いてしまった影縫の頭に、ユキの手がぽんと乗せられる。
「もー二人とも心配しすぎっすよ~。楽屋でツアーの今後話し合ってたら思いのほか白熱しちゃっただけ。ね、影縫?」
「ええ? そんなガラじゃない事するぅ?」
 ユキはともかく影縫に関しては明らかにキャラではないその内容に、仁亜はなおも訝し気な表情だ。説明を求めるような視線を受けて、影縫は意味も無くマスクつまみ、指先をもじもじと動かした。
「う、うん……ユキと盛り上がってたら、体、熱くなっちゃっただけ……」
 どうも歯切れが悪い上、普段とはどことなく雰囲気が違う。体調を誤魔化すメリットは無いため、本人がそう言う以上は第三者があれこれ勘繰る事でもないのだが、やはり何かが気にかかる。仁亜がさらに追及しようとした所で、それを待たずしてユキが声を割り込ませた。
「だって本番での影縫のファンサっぷり半端じゃないでしょ? 結局影縫だって本気でやってるからあそこまで化けてくれるんだし、やる時はやる子なんだから白熱したって不思議じゃないっすよね?」
「ああ……確かに。あの舞台詐欺考えたらね……」
 つい数時間前に見た、目の前のコレと同一人物だとは思えない舞台上の王子様を思い起こし、遠い目。確かにあれも、アイドルとしての職務を真剣に全うしているからこその変貌と言えるだろう。それに加えて、ステージに向けての練習は真面目にこなすし、表に出さないだけで静かに熱い部分がある事も知っている。ユキの言い分に頷けた仁亜は、それっきり詮索を切り上げた。
 こちらに背を向けて歩き出した武蔵と仁亜に、影縫はほっと胸を撫でおろした。それから二人に続く形で歩を進め始めたのだが、ややあって、耳元に、ふと温度を感じた。
『ほら、バレなかったでしょ?』
 ひそりと囁かれる、悪戯臭いユキの声。空気をたっぷりと孕んだそれは、つい今しがたまでの情交を鮮明に思い起こさせた。条件反射のように自身の瞳が潤むのを感じて、それを悟られたくなくて、ユキから見えないように視線を床へと揺蕩わせる。
『また楽屋でやろうな♡』
 たちの悪いお誘いに、ユキの色に染められ切った体がぞくりとざわめいた。
 ああきっと、次もまた、自分は断り切れないのだろう。だけどそんな予感を振り払うように、影縫は一度小さく、瞑目した。

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