小説

皆の王子様水方ユキが相方に恋人エッチされたくらいで女の子になっちゃうはずがない!!

letm_official
R18/BL/朔宮影縫×水方ユキ

ユキ縫アイドル第二段!オフの日を一緒に過ごし、お泊り会となったREVERSEの二人。前話で「影縫になら抱かれてもいいかも」と言ってきたユキの言葉がずっと気になっていた影縫は……?

 その日リバースの二人は、影縫の家で一緒に休日を過ごしていた。影縫がかねてより発売を心待ちにしていたFPS系のゲームを、ユキにも半ば強引に買わせて、半ば強引に付き合わせたのだ。だがこういう時ユキは「仕方ないなぁ」という風を見せつつも結局付き合ってくれるし、本人も元々サバゲーが好きなので、特に一人称視点のシューティングゲームはリアクションがいい。やり始めたらやり始めたで楽しいらしく、後日今度はユキの方から誘って来ることも多いため、結局ウィンウィンだと影縫は思っている。
 まだ発売して間もないゲームのため攻略も出揃っておらず、二人であーでもないこーでもないと言いながらプレイして、お腹が減ったらピザを頼んだりもして、仕事仲間というよりはただの友人としての時間を満喫した。影縫の方がプレイスキルが高いため、ユキに質問されたり、援護出来たりする事も彼は密かに楽しんでいた。日常ではユキの方が何でも出来るし社交性もあるため助けられてしまう事が多いから、何であれたまには自分が役に立てると嬉しいものなのだ。
 そして夜も更け、現在影縫は脱衣所で茹でたてホカホカになっていた。やっぱりずっとゲーム画面を眺めていると体が固まってしまうので、温かいお湯にゆっくり浸かると凄く楽になるなぁ、なんて考えながら、寝間着に袖を通す。
 前にユキと二人でおしゃれなルームウェアブランドのモデルをやった時、商品をいくつか頂けたのだが、やっぱり家でリラックスするために作られている服だけあって着心地が良くてびっくりした。部屋着なんて何でもいいだろと思っていた価値観がひっくり返った。以来ずっとそのメーカーのものを愛用している。ユキからは「何で寝るときが一番おしゃれなの……」と困惑されたりするのだが、いいだろ別に。おうちが大好きすぎる影縫は、基本的におうちに居る時の服が一番重要なのだ。
 そんなこんなでお風呂から出て、ユキが居るリビングへと戻った。ちなみに今日はもう遅いので、お泊り会になる事は決定済みだ。
「ユキ、お風呂空いた……」
 しかし、室内の光景を見て、言葉を飲み込む影縫。
(寝てる)
 ユキがソファに横になり、寝息を立てていたからだ。
 起こさないように足音を忍ばせて、ユキの傍に腰を下ろした。そして特に深い意味は無いのだが、なんともなしに寝顔を覗き込む。
(……こいつ、こんなに白くて大丈夫なのかな……)
 たまに思う事なのだが、ユキは本当に真っ白すぎて生き物として心配になる。
 起きている時は、顔に似合わず男っぽい部分があるというか、むしろその辺に転がっている男よりよっぽど骨があってパワフルだったりするのだが、こうやって静かに眠っていられると、繊細で儚くて、今にもどこかに消えてしまいそうな錯覚を覚える。それこそ雪を削り取ったような色の肌もそうだし、クリーム色の髪も、それと同じ色の長い睫毛も、そして今は瞼に隠れて見えない宝石みたいな瞳も。神様が、選りすぐりの綺麗なパーツを沢山集めて、本気で人間を作ったらこうなったんだろうなぁ、なんて、非現実的な事をちらりと考えた。
 そしてさらに目線を下に移すと、ピンク色の唇が、半開きで小さく呼吸を繰り返しているのが目に映った。柔らかそうな割れ目の奥に、歯列と、舌が、ちらりと顔を覗かせている。
(あ、やば)
 それまではただ美しい造形に感心していただけだったのに、影縫の中に明らかに別の感情が生まれた。一瞬目を逸らそうとしたのだが、ユキが寝ているせいで気が大きくなり、逆に少しだけ、顔を寄せてみた。目を覚ます気配は無い。
(このままキス出来そ……)
『でも、他でもない影縫に頼まれたら、さすがに考えちゃうかもなぁ』
 不埒な事を考えたからだろうか。先日ユキが口にした言葉が突如脳裏を過った。いつも影縫を抱くばかりのユキが、逆の立場になってみてもいいと、本音か冗談かは分からないがそう言ってきたのだ。
(……あれ、やっぱ冗談、だったのかな……)
 二人が体を繋げるのは、決まってライブ終わりだけだ。普段は至って普通の仕事仲間で、友人で、時に業界の先輩後輩で、実に健全で良好な関係を築いていると思う。そしてユキには紅という恋人がおり、影縫も、ごく限られた人間にしか知られていないが、仁亜とそういう仲である。お互いにパートナーが居るからというだけの理由ではないのだが、ともかく暗黙の了解のように、ライブ後のセックスに関して日常生活の中で話題に上がる事はなかった。よしんば今日のように互いの家に泊まる事があったとしても、絶対にそういう雰囲気にはならない。当然あの一言に関してもその後特に触れられることも無く、二人はいつも通りの生活に戻って行った。
(どんな気持ちなんだろう……ユキの事、抱くのって……)
 さらに近づいて、あと少し、もう少しだけ顔を動かせば、唇が触れてしまいそうだった。
(キスしたら、さすがに起きる、よな……?)
「ゆ、き」
 呼吸を感じる程の至近距離で、ほんの小さく名前を呼んだ。だがそれでも、ユキは目を覚まさない。ドキドキと心臓が早鐘を打っている。とてつもなくやましい事をしている気分だ。いや実際やましい事をしている。ユキが寝ているのをいい事に、今自分は、何をしようとしているのだろうか。
 さっきまで全然意識していなかったのに、いつもユキがつけている香水の匂いが急に鼻孔を強く刺激した。多分、紅から貰ったヤツ。まるで「おい勝手に手を出すなよ」と、遠回りに言われている気がして、それがむしろ影縫の神経を逆撫でした。うるさいな。ユキはお前の所有物じゃない。
 意を決し、ほんの少しだけ唇同士を掠めた。瞬間、ぞわりと心臓の裏側が波打った。キスなんてもう何回もしているはずなのに、この一瞬は特別柔らかくて、しっとりして、気持ちよくて擽ったかった。
「ッ……!!」
 慌ててユキを背にうずくまり、胸の中心をぎゅっと握りしめる。
(や、ば……! ほんとに、キス、しちゃった……!! 何でもない日に、ユキと……!!)
 唇にそっと手を当ててみると、今しがたの感覚が生々しく反芻された。ルールを破ってしまったような気がした。日常には決して持ち込んではいけない非日常を、ユキに内緒で、コッソリ持ち込んでしまったのだ。いけない事をした罪悪感と、あとは見て見ぬフリをしきれない興奮とで、心臓が煩く脈打っている。
 だがそこで、ぶふっ、と、背後から笑いが漏れる音が聞こえて来た。
 驚いて振り返ると、顔を覆い隠し、肩を震わせてくつくつと笑うユキの姿があった。少しのタイムラグの後、影縫の顔が火が付いたように赤くなる。
「は!? なっ……おまっ……起きてたのか!?」
「ご、ごめんて……しばらく狸寝入り、決め込むつもりだったんだけど……我慢出来なかったぁ~!」
「何で寝たフリなんかするんだよッ!!」
「だってぇ~すっげぇ近くで見られてんの分かるんだもん。あそこで起きたらそれはそれで気まずいじゃん」
 それにまさか、キスしてくるなんて思わなかったし。ユキがそう言った途端、影縫は言葉に詰まって膝に顔を埋めてしまった。黒髪の隙間から覗く耳たぶが、分かりやすく赤みを帯びている。
「何でキスしたの? ムラっときちゃった? 最近仁亜とエッチ出来てない?」
「……」
「ごめんごめんて。ウソ寝してたの謝るから拗ねないで欲しいっすよ~」
 わしゃわしゃと背後から髪を掻き混ぜると、しばらくの間の後鬱陶しそうに振り払われた。が、どうやら満更嫌でもないらしい。相変わらずその場に蹲ったままだ。そこで今度はもつれた髪を優しくといてみると、強張っていた肩が少しだけ下がっていくのが分かった。
「こないだの……ツアーの初日に、楽屋で、した時……」
 ぼそぼそと影縫が話し始める。
「ユキが……俺に、抱かれてみてもいいかもって、言ってたの、思い出した……ら……変な気持ちになった……」
 語尾をすぼめながら語られた内容に、一瞬ユキが首を捻った。が、すぐに思い当たるフシが見つかる。
「……あ~……そういえば、そんな感じの、あったな……」
 半分忘れていたようなその一言に、影縫の羞恥心が酷く刺激された。何だよ、言い出しっぺのクセに忘れやがって。こんなのまるで、自分一人だけがやたら意識してるみたいじゃないか。膝を抱える指先をきゅっと握りしめた。
「え? 影縫、そんなにシたいの? 蒸し返すくらい?」
「っ……わざわざ聞くな。ばか……」
「……あ、そうなんだ……」
 こういう瞬間を目にすると、影縫もやっぱり男の子なんだなぁと感じる。ユキとしてはあの一連の流れは、ライブ後の興奮とか、セックスの盛り上がりとか、その場における一種独特な空気に触発されての事だと思っていた。それがまさか影縫が自分の事を、日常生活において蒸し返す程本気で抱きたいと思っていたなんて、考えもしなかった。
 そしてそう思われている事に関して、影縫だからだろうか。やっぱり存外、悪い気はしなかった。
「えっと……じゃあ今から、する?」
「……え……」
「折角だから、っていうのもおかしいけど……ちょうど二人だし、今日泊まる訳だし……」
「……い、いい、の……?」
 信じられない事が起きたような声を絞り出す影縫とは裏腹に、ユキは何てことない風に頷いた。
「だっていつも俺ばっかっていうのも不公平だし、影縫がホントにしたいんだったら、そりゃ俺だって融通きかせるよ」
「でも、紅に、怒られるって……」
「うーん。だって影縫だし、枕とかガチの浮気とかじゃないから全然……。ただあの人逆に俺も混ぜろとか言い出しそうだから、やっぱ極力バレたくはないけど……うん。とにかく大丈夫だと思う。それに紅さん自分は好き勝手ヤりまくってるくせに俺はダメとか、それこそ不公平じゃん」
「影縫だし」という、謎の区分が若干引っかかりはするのだが、ぶっちゃけそんなのめちゃくちゃやりたいに決まってる。ただ本当にいいのだろうか。だって今目の前に居るのって水方ユキだよ? 皆の王子様だよ? 大天使だよ? 不可侵領域だよ? え? いいの? ほんとに抱いていいの? そんなうまい話ある? もしかしてこれ新手のドッキリ? ……なーんて、「言うてお前ももう一人の王子だろ」と突っ込まれそうな困惑を抱きつつ、影縫は唇をもじもじと擦り合わせた。尊すぎてすぐには首を縦に振れないが、だからと言って横にも振れない辺りにユキちゃん隠れ大ファンっぷりが滲み出ていると言えよう。
 だが、ユキにはそんな困惑も含めておおよそ伝わってしまったようだ。瞳を細め、頭をぽんぽんと撫でられた。
「うん。シャワーだけ行って来るから、ちょっと待ってて」
 それだけ言い残して、ユキが部屋を後にする。
 程なくして聞こえてきた水音が、やけに大きく感じたのは、気のせいだろうか。

 ◆

 裸なんてもう何度も見てるのに、というより、キスやそれ以上の事まで逆の立場で何度もしてしまっているのに、この状況でユキの白くて柔らかそうな肌を見ていると、「大切に触らなきゃ」という気持ちにさせられた。そっと手のひらを重ねる。人形のように整った見た目は冷たそうなのに、いざ触れるとシャワーから出たばかりの温かな体温が伝わってきた。思いのほかユキへの憧れが募っていたらしく、重ねた手が少しだけ震えてしまった。
「あはは、影縫かわいー。女の子じゃないんだからそんなに恐る恐るやんなくても壊れないよ?」
 それをユキに気づかれたのだろう。今からセックスをするというのにいつもと変わらぬ調子で笑われて、またも自分だけが意識しているようで面白くない。
「うるさいな。黙ってろ」
「ん」
 唇を重ねて余計な事を言わせないようにする。柔らかく数度押し付け合うと、ユキの唇が小さく開いた。隙間から零れる呼吸を感じて堪らない気分にさせられる。誘われるままに舌を滑り込ませて、口内を撫で回した。ぬるい粘膜とユキの味が、ぞくぞくと背骨を疼かせていく。
 少し体重をかけると、ユキの体は何の抵抗もなくベッドに沈んでいった。と同時に、項に両手が回ってくる。すりすりと首回りを愛撫してくる指先がこそばゆい。負けじと舌を誘い出して、互いの口内を行き来させながら絡め合った。
(ユキ♡ ユキ……♡)
 ずっと心の底の方に押し込めていた気持ちが噴き出してきて、頭の中で何度もユキの名前を呼びながらキスに没頭してしまった。リップ音と、ユキの鼻から抜ける小さな声に、欲情して仕方ない。いつもは積極的に舌を使って来るユキも、今回は受け身に徹してくれているらしく、影縫の動きに控えめに受け応える程度だった。そのしおらしい動きがまたこちらの気分を持ち上げて、興奮を煽ってくるのだ。
「は……♡」
 しかし唇を離し、改めてユキの顔を見た時だった。影縫の心がざらついた。
 ユキは、呼吸こそ乱れているものの、微笑まし気な表情でこちらを見上げていた。まるで、じゃれてくるペットを愛でるような、一生懸命頑張っている小さい子を眺めるような、そんな表情。
 ……重ね重ね本当に面白くない。
(何だよその顔)
 一体自分は何だと思われているのだろうか。
 ユキよりは一つ年下で、背も少し小さくて、事務所にも後から入った後輩であるが、それだけだ。庇護対象じゃない。身体も、機能も、ちゃんと男で、ユキを抱きたいと思っているのに、子供扱いされて、「影縫だから大丈夫」なんて区分されているのが本当に面白くない。
 もし、影縫と寝る程度なら浮気じゃないなんて思われているのだとしたら、そんな事言えなくなるようなセックスをして、ユキの言う所の「ガチの浮気」にさせてやろうかと、そんな考えが頭を過った。
 少し穏やかでない心のうちのまま、股の奥へと手を伸ばす。
「あ、大丈夫だよ。お風呂で準備してきたから、すぐいけると思う」
 影縫がいよいよ隠し切れずむっとした表情を見せた。
「何で勝手にやるの」
「えっ? な、何でって……」
 ユキとしては、男を抱いた事が無い(と思われる)影縫が致しやすいように気を利かせたつもりだったのだが、逆に気分を害してしまったらしい。まさか怒られるとは思わず、顎を引いて困惑した様子を見せるユキの後孔に、再度指が添えられた。
「しばらく指で、確かめていい?」
「へ……? いいけど、っ♡ 何、を?」
 くち。くち。入り口が控えめに弄ばれる。
「どうすればユキが気持ちよくなるか知りたい」
「んっ……ッ♡」
 ぬるぅ~~~……♡ 中指が肉壁を掻き分けた。今しがた述べた通り、既に準備は済ませてあったので、何の抵抗もなく根本まで迎え入れられる。
(な、なんか、若干、機嫌悪い……?)
 そこで初めて、ユキは影縫の調子がいつもと違う事に気付いた。影縫は普段からテンションが低い一本調子のため、機嫌の上がり下がりが分かりづらい傾向にある。気づいたら取り返しのつかない所まで怒らせていた……なーんてのは、まだ関係が浅い頃に何度かあった笑い話だ。
(ちょっと余裕見せすぎたかな……)
 ユキはあくまで良かれと思ってやっただけであって、影縫のお株を奪いたかったわけではないのだが、どうもそれが癪に障ったと見える。確かに紅と寝る時の自分で置き換えて考えてみても、あまりに余裕綽々で居られると複雑な気分になる事はあるので気持ちは分かる。男としての矜持を慮ったユキは、ここは大人しく影縫のやりたいようにやらせてあげる事にした。
 ぬる、ぬる♡ ぬちっ、くちっ♡ 指が往復したり、円を描いたりして、ゆっくり壁を擦ってくる。そんなに恐々やらなくてもいいのに、と思う反面、影縫なりの優しさを感じて悪い気はしなかった。影縫は、口先はぶっきらぼうでつんけんしていたりするのだが、別に優しくないわけじゃない。特に心を許している相手にはなおの事。だからこそそれを感じると、自分が影縫にとっては「特別」なのだなぁと分かって、ついつい嬉しくなってしまうのだ。
「ひンッ♡♡」
 ごりゅんっ♡ 指先が思いがけず、気持ちいい所を押しつぶして来た。突然下腹を跳ねさせたユキに、胎内でびくりと指が強張ったのが分かった。
「ぁ……んんっ……そこ……♡♡ ぁっ♡ そこ、敏感だから……最初は優しく、触って欲しい……♡」
「……うん、分かった……」
 カリ……カリ……カリ……♡ 動きを改めて、ユキの言う通り優しくゆっくりと前立腺を往復する。
(ッ……♡ こういう弄り方、あんまされないから……♡)
 一掻きごとにぞくりぞくりと腹奥に溜まっていく熱を感じる。紅はもうユキの気持ちいい場所や好きな触り方などとうに知り尽くしてしまっているので、こんな手探りでたどたどしいやり方をされる事はまずない。
(なんか、ヘンな感じ……♡)
 それが何だか新鮮で、思いのほかドキドキと胸が高鳴った。妙に甘酸っぱくて、たどたどしくて、ソワソワしてどうしたらいいのか分からない不安定な空気。まるで付き合いたてのカップルが初めてエッチをする時のようなこの初々しさも、紅とのセックスでは味わった事のないものだった。
「……ねぇユキ、俺は」
「う……ん……?♡」
「ユキでオナニーしたいんじゃなくて、ユキとセックスしたいと思ってる」
「ぁ♡ は、ぁあ……ごめん……♡」
「……ちゃんと気持ちいい?」
「んん……♡ きもちぃ……♡♡」
 やたら男前な事を言い始める相方に少し驚いて、ナカをきゅんと締め付けてしまう。どうも思っていた感じとは違った。ユキとしては、影縫の可愛い興味関心を満たしてあげるだけのつもりだったのだ。自分が快感を得ようという気持ちは、そこまで無かったのだが……。
「ねぇ、影縫……ちくびも、いっしょにして欲しい……♡」
 気付けば腰を浮かせながら、そんなオネダリを零していた。真っ白な肌の上に、薄ピンクの突起という男の夢の結晶のような乳首が、物欲しそうにつんと尖っている。
 中指を触れ合わせ、ゆっくりと上下に擦られると、乳頭がさらに芯を持った。神経が連動しているかのように、下腹が甘くざわめいていく。ユキの反応を探るように、捏ねたり、引っ張ったり、摘まんだり、押しつぶしたり、なかなかツボを得た触り方だった。あからさまに感じているのがバレるのは少し恥ずかしかったけど、勝手に肉ヒダがヒクついて、勝手に影縫の指を締め付けてしまった。
 イイトコロを擦りながら、滑らかに入る場所まで入れて、ゆっくり引き抜いて。そしてさっきよりもほんの少しだけ奥に入れて、またゆっくり抜いて。優しい動作でその繰り返し。乳首を扱かれながら丁寧にナカを解されていると、気持ち良くて頭にぼんやりと靄がかかってくる。指を歓迎するように足の力が抜けていき、内腿がぴくぴくと打ち震えた。
(あ、ぁ……なんかドキドキする……♡ もしかしたら、こんな気持ちなのかな……普通の初めてって……♡)
 その若さでそこまで売れてるんだから、当然枕営業くらいしてるんでしょ? なんて下世話な勘違いをされたりもするのだが、ユキは紅以外の男に抱かれた事はない。
 さらに紅という人間は、女は勿論の事、男も抱き慣れ抱かれ慣れているような、天性のエロ魔人。当然手管も相当な物で、ユキは初エッチの時点からくてんくてんのグズッグズに気持ちよくさせられて、初々しさもクソもない処女喪失を体験したものだった。
 だから「紅以外の、普通のセックス」というものの感覚を、ユキは知らなかった。
 こんな風に、女の子みたいにそっと触られるのも、気持ちいい場所を恐る恐る探されるのも、頑張って隠そうとするけど隠し切れない熱っぽい視線を向けられるのも、初めてだった。
 体の快感は無論紅から与えられるソレには到底及ばないのだが、何といえばいいのだろうか。心がむずむずして、こそばゆくて、腹の奥から何かがきゅっと込み上げてくる。その感覚が、凄く心地よかった。
(これ、気持ちいいかも……♡)
「かげぬい、きもちいぃ……♡」
 ついうっかり、心に浮かんだ言葉を吐息と共に零してしまうと、上からは嬉しそうな気配が降ってきた。
「もっかいキスしたい……♡」
「ふ……♡」
 表を寄せて来た影縫に、先程よりも数段熱っぽく、貪るように口内を煽り立てられた。
 感じ入り始めたタイミングでのキスの効果は絶大で、頭がじんじんと痺れ、飲み込み切れない唾液が口角を濡らし、興奮と息苦しさで呼吸が乱れた。先ほどよりも本数の増えた指で、官能にざわめく腸壁を宥めるように扱かれる。
(あぁ……!♡ それ、だめ♡ くうき、入ってきちゃうぅ♡♡)
 にゅぱあ♡ 柔らかさを確認するように、二本の指で穴を広げられ、たまらず体が左右にくねった。一旦閉じて、また開いて、奥まで抜き差しして、また開いて。そんな事を繰り返されて、我慢しきれずへこへこと腰を揺らしてしまう。
(やだ♡ すうすうするの切ない♡♡ あったかいの欲しい♡ もっと、あついので、お腹いっぱいになりたい……!♡♡)
 きゅん♡ きゅん♡ 心境を代弁するかのように、胎内で影縫の指を締め付ける。口に含んだ舌にもちゅぱちゅぱと吸い付いて、ユキは上でも下でも無自覚のままに催促をしてしまっていた。
 ちゅうぅ、ぽんっ♡ 名残惜しそうな肉ヒダアピールに引き止められつつ、いよいよ指が抜き取られ、腰が抱え直された。
「あっ……♡ ナマは、さすがに罪悪感あるから……その……♡」
「分かってる。ちゃんとゴムする」
 影縫がベッドサイドの棚に手を伸ばす。当然のようにそこからゴムが出てきて、どきりと心臓が跳ねた。ベッドサイドに常備された避妊具が影縫のイメージと全く結びつかず、何だか見てはいけないものを見てしまったような気がして、恥ずかしくなったユキは思わず目を逸らした。
 中学生の恋愛でもあるまいし、まさか相方とマネージャーがプラトニックな関係だとはさらさら思っていなかったのだが、いざ目の前でハッキリと証拠を見せつけられると思いのほか動揺した。全く男っぽさがなく、周囲からまるで子供か弟かのように可愛がられており、初心で何も知らなそうに見える影縫が、その実いつもここで仁亜を抱いていて、そして自分は今まさに、それと同じように抱かれようとしているのだと、知らしめられたような感じがしたからだ。
(やばい、どうしようっ……ナメてた、かも)
 影縫の匂いがする部屋で、薄暗い照明を背にゴムを準備している動きを見上げるこの状況は、想像の何倍も生々しかった。もう隠し切れずに先を期待してしまっている体が、ひくんと、後孔を疼かせる。
 こんなつもりじゃなかった。
 自分が気まぐれで言った一言を実はずっと気にしていて、寝ている隙にこっそりキスをして、それがバレて真っ赤になってしまうような可愛すぎる相方に、知らない事を体験させてあげるだけのつもりだった。ちょっと中を使わせてあげて、その時の顔を可愛いなぁって眺めて、気持ち良かったね~ってヨシヨシして、はいお終い。その程度の心づもりしかしていなかった。
(思ってたのと、全然ちがう)
「ゆき……入れて、いい……?」
 ちゅ。硬い感覚が触れる。それを求める体の内側が、複雑に蠕動するのが分かった。
 お伺いを立てる顔は、普段の影縫とも、ステージ上の王子様とも、勿論自分に大人しく抱かれている時とも違った。一応質問のテイは取っているものの、一方で逃がさないぞとばかりに手のひらがユキの腰を掴んでいる。視線も、声も、体温も、ユキを見下ろす全てが一丁前に雄っぽくて、ゾクゾクする程色っぽくて、このまま抱かれてしまったらもしかしてマズいのではないのかと、一種の危機感のようなものを覚えた。背筋が激しく戦慄いた。
(こんなのふつーに、影縫、男じゃんっ……!!♡)
 ユキは、あまりに当然の事を、この状況になってまざまざと痛感してしまったのだ。
「ぁ……! ちょっ……やっぱたんま、たんま! まっ、て……!」
「……だめ、むり。待てない」
「ひっ……♡♡」
 咄嗟に押し戻そうとした手のひらを、絡め取られて指同士組み合わされて、ベッドへと縫い付けられる。それと同時に、肉の合わせ目を熱が抉じ開ける感覚が襲ってきた。一瞬垣間見えた性急さのせいで、どきりと心臓が飛び跳ねる。繋がれた手を反射的にきつく握りしめると、向こうからも反応が返ってきた。ぴったりと密着した指の股から、互いの脈拍が伝わってくる。
(ッ♡ これ、だめぇ♡ これドキドキする♡ 恋人つなぎでちんぽハメてくるのっ、卑怯だってぇ♡♡)
 影縫なら大丈夫な気がしていた。大切な相方であり、後輩であり、弟のような存在でもある友人の、可愛いじゃれっこに付き合うだけのはずだった。
 だけど、お腹を行き来する感触はちゃんとペニスで、ちゃんと肉ヒダをぞりぞり抉ってきて、ちゃんと体の芯を熱くさせてくる。だけどめちゃくちゃに腰を打ち付けてくるわけじゃなくて、あくまでユキの気持ちいい所を探りながら、優しく丁寧に内壁を擦ってきてくれる。男を抱いた事がない分、本当に女の子として大切に抱かれているみたいだった。新鮮で、堪らなく心が気持ちよく、呼吸が乱れた。
(こんなのずるい♡♡ こんなの影縫じゃない♡♡ 恋人みたいなエッチしないで♡ こんなの♡ 本気で、気持ち良くなっちゃうよおぉ……!!♡♡)
「ねぇユキ、好き……」
「ッく、ひいぃぃっ……!!♡♡」
 ぬるうぅぅうう……♡♡ 肉ヒダを引っ張りながらゆっくりと抜かれ
「好き」
「はッあ゛ぁっ♡♡」
 ぱちゅんっ!♡ 奥へと打ち付けられる。
「可愛い……ユキ、可愛いっ……♡」
「ひぉッ♡♡ そこ♡ ごりごりっ、だめぇっ♡♡」
 押し付けた竿で前立腺を捏ねられて、ユキが頭を振りたくった。
「まっ、待って♡ 待って聞いてないっ♡♡ こんなのっ♡ ほんとに、セックスじゃんかあっ♡♡」
「……セックスだけど? ユキは何のつもりだったの?」
「らってぇっ♡♡ かげぬい、だしっ♡♡ くれないさんみたく、きもちよくならないはずだからっ♡ だいじょうぶだって、思ってぇ♡♡」
「は? 心外。やるんだったら普通に気持ちよくするし」
「おおぉ゛ッ♡♡」
 勝手に墓穴を掘り、勝手に影縫をカチンとさせたせいで、奥を穿って黙らせられてしまう。
「はーっ♡ はあぁあっ♡♡ おなかきもちいぃっ♡♡ あっ♡ あんっ♡♡ そんらっ、えっちなのぉ♡ だめえぇぇ……っ♡♡」
「……いいのかダメなのかどっち?」
「あぁ♡♡ いいっ、けどおッ♡♡ きもひぃ、けどおっ♡♡ あっ、だめ♡ だめなのっ♡ こんなきもちよくされたらっ、すきに、なっひゃう♡♡ ほんきのえっち、しちゃうからあっ♡♡」
 どきどきと高鳴る鼓動のまま、ユキが正直な困惑を口にした。その言葉を聞いて、影縫の心がかあっと熱くなり、嬉しさのあまり口元がむずついた。
 最初はあんなにナメて余裕をぶっこいていたユキが、気持ちよすぎて好きになっちゃう、とまで言っているのだ。してやったりと思った。自分の中の男が見たされていくのを感じながら、そっとユキに表を寄せる。
「好きになればいいだろ。っていうか、ユキは俺の事嫌いだったの?」
「ちがっ、っぁ♡ そうじゃ、なくてえッ♡♡ ひっ♡♡ おとこ、として、好きになっちゃうよおぉ……ッ♡♡」
「だからなれば?」
「へっ?」
 影縫の手が、とまどうユキの顎先を持ち上げた。間近でかち合った瞳の色に、一瞬ユキの呼吸が奪われた。あの目だった。ステージに上がる直前に見せる、あの魅力を隠す事を止めた瞬間のアメジスト色。その瞳に囚われて、脳味噌が沸騰しそうになった。
 自分も同じ舞台に立っている時ならまだしも不意打ちでこれはダメだ。本人は気づいていないのかもしれないが、彼には人間の本能的な部分を情動させる才能がある。色気がある。普段は仕舞い込んでいるそれを、舞台上で惜しみなく解放した瞬間に、目線で、呼吸で、指先の動き一つで、彼という存在そのもので、観客の視線と熱狂を掻っ攫うのだ。ステージ上で隣に立っている時すらあてられそうになるソレを、何の心づもりもしていないこの状態で、自分ただ一人だけに向けられようものなら。
(やばいやばいやばいっ♡ 影縫が男の顔して俺の事抱いてる♡ こんなのずるい♡ こいつ顔がよすぎる♡ かっこいいぃい♡ どうしよう♡ どうしようっ♡♡)
 自分の心の取り扱い方が分からなくなり、ユキは今すぐこの場から逃げ出したくなった。だがそんな気も知らず、影縫は尚も真っ直ぐに瞳を捉えてくる。つう、と、頬に手のひらが滑ってきた。
「紅よりは幸せに出来ると思うけど」
「ぇ、ちょ……♡ い、いきなり、なに、言ってんだよ……♡ 仁亜が、いる、クセに……!♡」
 ドキドキしすぎてしどろもどろになっているユキの前髪をすきながら、影縫が余裕たっぷりに目を細める。
「仁亜と纏めて幸せにすればいいだけの話だろ?」
(影縫様――――――!!!!!)
 突如降臨なされた影縫様でもうダメだった。ときめき過ぎたユキの涙腺が崩壊した。だって恋人みたいなセックスをされながら、この顔面偏差値で、こんな至近距離で口説かれてみろ!! こんなん死にそうになるわ!! 普段との天と地のようなギャップを見せつけられたせいで、心臓が張り裂けそうだ。間近で覗き込まれている顔が熱い。完全にオトしに来てる。影縫が本気出して来てる!!
「ユキ、俺にしとこ……?」
「ぁ♡ だめ♡ ぐすっ♡ ちんぽ、ハメながら♡ 口説かないでえぇ♡♡ ひっ♡ あぁっ♡♡ だめ♡ だめ♡ だめえぇえ♡♡」
 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ♡♡ 影縫と気持ちよく馴染みあったユキのお腹が、奥の方でキスのような音を立て始める。
(影縫と、お腹で、ちゅーしちゃってる♡♡ ソコ紅さんのなのに♡ ほんとは、ダメなのに♡ 腰っ、止められないぃ……!!♡♡)
 影縫が引くタイミングでユキも腰を引き、突き上げるタイミングで思いっきり下腹を突き出す。そうするとペニスが深々と入ってきて、結腸と亀頭がむちゅむちゅと吸い付き合い、堪らない快感をもたらしてくる。ちゅっぱっ♡ ちゅっぱっ♡ ちゅっぱっ♡♡ 卑猥な音を立てながら、吸い付いては離れる感覚が気持ちよすぎて、ユキは何度も何度も、ひたすら迎え腰で影縫を受け入れてしまった。
「あぁっ♡ あぁあ♡♡ ほんとに、だめ♡ だめえっ♡♡ あん♡♡ あっ♡ あぁっ♡♡ おく、らめなのおぉ……♡♡」
「腰揺らしてるのユキだけど」
「だってぇ!♡ きもち、よすぎてっ♡♡ 腰出ちゃうんだってばあっ♡♡」
「じゃあ止めればいいの?」
「ぅ、やだ♡ やだっ♡♡ やめて欲しくない♡♡ やめてほしくない、けどぉ♡♡ どうしたらいいかわかんないぃ♡♡」
「……いい加減今は紅の事忘れればいいんじゃない?」
「うっ……うぅ……♡ それ、は……♡」
 影縫が、ユキの髪が短い方、左耳を手のひらで包んだ。いつもそこにハマっている、赤い色のピアスを隠すように。
「ねぇユキ、こっち見て」
 息を上げながら側頭部を擦るユキにそう言うと、涙が絡まった睫毛が持ち上げられた。うるうると濡れたアイスブルーが、影縫に焦点を合わせる。
「今誰がユキの事抱いてるか、ちゃんと見て」
「ッ……~~~~~♡♡」
 情欲を湛えた深い色の瞳に囚われた時点で、僅かばかり残っていた紅への貞操観念が崩れ落ちた。もう無理だ。我慢できない。今は何も考えず、思いっきり影縫に抱かれたい。
「かげぬいぃ……すきぃい……♡♡」
 気付けば影縫の背中に両手を回し、きゅっと縋り付いて肩に額を甘えさせていた。それはもはや可愛い相方への「好き」ではなく、気持ちいいセックスをしてくれる男への「好き」に変わっていた。
「かげぬい♡ かげぬい♡♡ あぁあ……っ♡♡ かげぬいっ、ひゅきぃい♡♡」
「うん、俺も好き……♡ 気持ちいい……♡」
「ッ♡♡ すきっていわれるのっ♡ きもちいぃよおぉ♡♡ もっと♡♡ もっと欲しいぃ……♡♡」
「ん……♡ ユキ、大好き♡ 可愛いな。好き♡ 大好き♡」
「あっ♡ あんっ♡♡ 俺もすきいぃ♡♡ あっ、あぁっ♡♡ かげぬいのこえっ、きもちいいぃ♡♡」
 先程よりも柔らかく開いた腹奥に、思いっきり先っぽを押し付けるとユキの腰がびくんと跳ねた。ちゅぱちゅぱと吸い合うと小刻みに戦慄いて、粘液にまみれながら離れていくと悩ましくくねって余韻を追いかける。血色が見えやすいユキの肌は全身ピンクに染まっていて、相手を吸い寄せるようにしっとりと汗ばんで、セックスの快感に溺れている様がありありと見て取れた。
「ねえっ……おなかのおくで、ひっ、ちゅーしながらっ♡ おっぱいもシてほしいの♡♡ おれっ、それがいちばんすきでぇっ、ッ、ひ、んんンッ~~~~!!♡♡」
 カリカリカリッ♡♡ ユキが言い終わる前に、爪先が両方の乳首を素早く引っ掻いた。途端、胸元を晒すかのようにユキの背筋がしなって、首筋を玉になった汗が伝う。腸壁も今までにない程きゅうううぅぅぅッ♡♡ と、影縫を抱きしめてきた。
「あぁぁあぁっ♡ ぁあ♡♡ っくうぅ……ッ♡♡ かげぬいぃい♡♡ きもひいっ♡♡ それっ、ぞくぞくってクるうぅ♡♡ おまんこ、きもちよくしてくれるの♡ うれひいよおぉっ……!!♡♡」
 思う存分女の子の快感を疑似体験しているユキは、普段の男っぽさが削ぎ落されている分ただただ可愛らしかった。眉尻を下げた表情も、鼻にかかった甘え声も、舌を覗かせるだらしない口元も、繊細で美しい容姿が歪む様は酷く扇情的で、もっと乱れさせてやりたいという男の本能を掻き立ててくる。確かにこんなユキの姿を他人には見せたくなくて、自分だけが特別に知っておきたくて、紅の独占欲にも納得がいくような気がした。
「ど、どうしよう……かげぬいぃ……♡」
 と、二人の快感が深くなり始めた所で、ユキが呼吸を弾ませながら声を縋らせてきた。
「……ナマで、欲しくなってきちゃったぁ……っ♡♡」
 そしてペニスが行き来する下腹を撫でながらの一言。うるうると目を潤ませながらのあざとい一言の思い通りになるのがもはや癪なレベルで、影縫は動きを止めて首を傾けるに留めた。
「それで?」
「え……と……影縫は、どうしたい……?♡」
「俺に選択を任せるな」
「う……」
 恐らく最後の引き金は影縫に引いて貰いたかったのだろう。狙いが外れたユキが少しばかり羞恥を滲ませた様子で逡巡する。が、それも束の間の事で、次の瞬間には腰を引きペニスを胎内から抜き取っていた。
 温かい場所から放り出され、非難がましく律動する肉棒の前にユキが屈みこむ。自分を気持ちよくしてくれたソレを目の前にして抑えきれない興奮を滲ませながら、ゴムの根元を唇に咥えた。
「んっ……むぅ……♡」
 唇で挟んだまま捲り上げていくと、閉じ込められていた精液の匂いが鼻孔に滑り込んできた。それが欲しくて堪らない尻の丸みが、左右にふりふりと揺れ動く。
 先端まで露出した所で、最後に勢いよく持ち上げると、中に溜まっていた我慢汁がユキの頬っぺたに飛び散った。窮屈なラテックスから解放されたペニスは先ほどよりも硬度が増したようにすら思えて、うっとりと目が釘付けになる。
(すごい……♡♡ 影縫のちんぽって、こんなだったっけぇ……♡♡)
 さすがにいつもと違うという事は無いはずだが、圧倒的に雌本能が優位の状態だといつもの何倍もいやらしく見えた。ついウットリと舌を這わせつつ、先端に指でちゅこちゅこ♡ 甘コキを仕掛けてしまう。
「はーっ♡ 影縫とゴム無しえっちしたい……っ♡ おれの♡ んむ♡ しきゅーこぉに♡♡ ちゅっ♡♡ 生チューとっ、中出ししてぇ♡♡ はあぁっ♡♡ かげぬいの赤ちゃん、っ、仕込んで欲しいの……♡♡」
 ペニスのご機嫌を取るような愛撫を加えながらの、上目遣いでメス顔全開のオネダリ。いつも紅がこんな事を言わせているのだろうと思うと腹の一つも立ちそうなのだが、この状況ではそれすら興奮にブーストをかける要素に過ぎなかった。かっと頭に血が上った衝動のまま、影縫は強引にユキをベッドに押し付けた。
(ッ……~~~!!♡♡♡ 影縫、さっきよりもっと雄っぽい顔になってる♡ 俺の事っ、絶対孕ませてやるって顔になってるぅ……ッ♡♡)
 一体どこから引き出されているのだろうか。薄暗い中でも光を返す瞳には、言いなりになってしまいたくなるような、絶対的な色気があった。その顔だけで酷く感じてしまっているユキの頭を掻き抱いて、耳に唇を押し付けながら、隔たりが無くなったペニスが再度ぬかるみを捉える。
「共犯な。俺も紅に言わないから」
「ひぁっ♡ う、うん♡ うんっ♡♡ おれも、仁亜に言わなひ、ぃ、おぉぉおッ……!!♡♡」
 ぼそりと吹き込まれた低い声と、侵入との両方にユキの喉が晒された。
「ひゅごっ♡♡ ナマ、すごいぃい♡♡ っ、く、ひいぃぃっ♡♡ あついの入ってきてっ♡♡ おくまで入ってきてるのわかるうぅッ♡♡」
「んッ……あっつ……♡♡」
 たかが薄いゴム一枚が無くなっただけなのに、さっきまでとは何もかもが違った。粘膜同士が直接絡み合う充足感は筆舌に尽くしがたく、奥も比べ物にならないくらい深く吸い付いてお互いを離そうとしない。何より直に感じる互いの体温が、二人の背筋をざわざわと痺れさせた。
 ユキが物欲しげに舌を突き出してきたので、影縫も自分の舌を絡ませてやった。そのまま口外で捏ね繰り合う、エッチなベロキスが開始される。二人分の唾液がユキの口角から顎を伝い、ぽたぽたとシーツを濡らした。
 欲望のままに腰を使い合い、唾液を滴らせながらキスに酔いしれる様子は、互いにアイドルのアの字も無くて、ただ熱を貪り合う動物のようだった。真夜中のベッドが軋む音、二人分の呼吸音と喘ぎ声、ユキの一番奥で吸い付き合う粘膜同士のキス音が、ストッパーの外れた二人の興奮を際限なく高めていく。
「おくずっとトントンされるのきもひいぃよおぉ♡♡♡ ひぃんっ♡♡ ちくびもっ、いっひょにされたら……ッ♡♡ ッくうぅぅ♡♡ おなかっきゅんきゅんしてっ♡♡ あッ、ぁっ……♡♡ い、いきそぉ♡♡ イきそうなのきてる♡♡ かげぬい♡ かげぬい♡♡ おれっ、もぉイっひゃいそぉおぉ……!!♡♡♡」
「ぅん……♡ 俺も、イきそ……っ♡」
 涙を零しながら絶頂を訴えたユキが、影縫の背に足を回して力を込めた。奥へ奥へと求める動きに従って、影縫もユキの体をかき抱きながら腰を打ち付ける。
(あぁぁ♡♡ 生ちんぽで奥までズポズポされるの気持ちいいよお♡♡ こんなの絶対深いのきちゃう♡ 影縫ももう中出しする気になってる♡♡ 紅さんごめんなさい♡ 俺、影縫と、本気の中出しエッチしちゃうぅ……!!♡♡)
 脳内で紅への謝罪の言葉を紡ぐものの、ユキはそれと同時に酷く興奮を覚えていた。背徳感でちかちかと視界を明滅させ始めた所で、一際強く、ペニスが突き刺さった。
「ひお゛ッッ……!!♡♡ あぁ゛ぁッ!!♡♡ ッ~~~~~♡♡♡ イっ♡♡ いぐうぅぅううッ♡♡♡ イくッ♡♡ イくッ♡♡ いくうぅぅううッ!!♡♡♡」
 一番気持ちいいタイミングで訪れた絶頂に、ユキはじっとしていられずぱさぱさと髪を振りたくった。足指がぴんと突っ張って、がくがくと痙攣し、影縫の背中に爪が立てられる。全身を真っ赤に高揚させながら深いオーガズムを極めるユキの締め付けに耐え切れず、ナカでも熱が弾けた。
「あ゛ッ、あ゛ッ♡♡ ああぁあッ……!!♡♡ なからひっ、きもちいぃぃい♡♡ おなかあつくなってる♡♡ かげぬいれえっ♡ おなかの中いっぱいになってるうぅぅ……っ♡♡ ひっ、あぁぁッ……♡♡ かげぬい♡ かげぬいぃい……♡♡」
「ッ……♡♡ ゆ、き♡ ゆき♡ ゆき……♡♡」
 隙間なく体を密着させて、名前を呼び合いながら味わう絶頂感はひとしおだった。波が過ぎても二人はしばらく繋がったまま、互いの体温を存分に感じながら、じっと愛おしさを噛み締めていた。

 ◆

「影縫ってどっちがほんとの影縫なの……」
「は?」
 そして行為が終わった後、二人で向かい合って布団に入りながら、いまだぼんやりと余韻に浸っているユキが端を発した。
「最初めちゃくちゃ童貞っぽくて可愛いなぁって思ってたのに、何で途中から影縫様出てくんの……! 死ぬかと思った……どっちが本物なのぉ……!」
「……いや童貞なわけないだろ何言ってるんだお前……」
「それは分かるけど、影縫って何か雰囲気が童貞っぽいんだもん!!」
「女相手はガチ童貞のくせに経験あるっぽく見せてるユキにだけは言われたくない」
「童貞じゃねーよ!! 仁亜と二人して俺に変な属性付与しようとすんのやめろ!!」
 紅とイチャついてばかりいるため、ユキは度々「実は女相手の経験が無い」とイジりを受けている。無論その度に否定はされるし、このクオリティで生まれて来てさすがにそれはないだろうと思うのだが、具体的な話を聞いた事が無いために影縫はいまだ半信半疑でいた。それにほら、水方ユキガチ勢としては童貞であってくれた方が尊み増すしさ。仕方ないよね。
「……別に。どっちが本物とか偽物とか無い。普段はやる必要ないから、無駄なエネルギー使わずに生きてるだけ」
 とまぁ、ユキへの童貞願望はさておきとして、影縫がさらりと疑問に答えた。ううむ。ユキが喉の奥でうなる。という事はやっぱりコイツは、出来ないぶりっ子をしつつも自分の容姿や色気が武器になるという事はちゃんと理解しているし、適切なタイミングで適切な使い方をして効率的に世渡りをしているという訳だ。何だその黒幕感。恐るべし……仁亜もアレにやられたに違いない……。
「ねぇユキ」
 そんな事を考えていると、さっぱりと色気を片付けて、普段の様子に戻った影縫が、しおらしく顔を寄せてきた。
「これからも、たまに俺がしていい……?」
 猫を被り直したお伺いの表情を前に、ユキの言葉が詰まった。今しがたまでの情交を体験してしまうと、この無害そうな空気がもう嘘くさくて仕方ない。仕方ないのだが……くそ、可愛い……。
「……紅さんに、バレない程度だったら……」
「……ありがと」
 とっておきの表情でふわりと目を細める影縫。うっわあざと。ユキはナチュラルボーン王子様とかアイドルになるために生まれてきたとか光栄な事を言って貰える機会も多いが、実は色んなキャラクターに着替えられる影縫の気質こそが、裏を返せば一番アイドル向きなのではないかと思う事がある。自分はどこに居た所で水方ユキとしてしか存在出来ないが、影縫はその場の空気や需要に応じて変幻自在に自分自身をカスタマイズしているのだ。しかも、無意識のうちに。時に口さがない世間のリアクションに晒されながらも夢を与え続けるという、一歩間違えれば「自分以外の何か」になりがちな職業において、嘘をつくわけでもなく心をすり減らすわけでもなく、演じ分ける事そのものが自分らしさという才能を持つ人間が一体どれだけ居るのだろうか。恐らくほんの一握りだ。
 すり。ユキの肩口に、影縫が顔を埋めた。
「ユキいい匂いする」
「……影縫こそ」
「ユキの方がいい匂いする」
「もーめちゃくちゃ機嫌いいじゃん」
 そんなに俺の事抱きたかったの? なんて愚問は、折角喉を鳴らしてくれている黒猫ちゃんにはけしかけない事にした。代わりにすぐそこにある髪をすいてやりながら、ふかふかの枕に頭を沈めた。こんなに喜んでくれるなら、逆の立場も悪くないかもな、と、そんな事を考えてしまう時点でまんまと影縫に絆されている事に、気づいているのかいないのか。
 影縫の呼吸が少しずつ穏やかになっていく。ゆっくりと上下する肩を眺めていると、つられてユキの思考もまどろみ始める。しぱ、しぱ。睫毛を瞬かせ、瞼を下ろすユキ。それでもしばし緩慢に、影縫の毛艶を楽しんでいたのだが、その手の動きもやがて静かになっていった。
 仲良く身を寄せ合いながら眠りの世界に落ちた二人を、常夜灯の明かりが静かに見下ろしていた。

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